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2016年2月16日 (火)

1945年秋の東京

佐藤洋一『米軍が見た 1945秋』という不思議な写真集を買った。たぶんどこかの書評で見て、気になったのだと思う。米国の国立公文書館に収蔵されている写真を200点ほど集めたものだが、なんとも興味深い。

ほとんどの写真が1945年の8月後半から10月頃までに撮影されている。8月後半のものは、焼跡になった東京の各地を空撮で舐めるように撮っている。銀座も日本橋も麹町も亀戸も中野も立川も。ほとんどグーグルマップ並みに各地が撮られている。本当にどこも焼野原で、そこに焼けたビルが立っている。

人影はほとんど見えない。公開中の映画『不屈の男』にも出ていた大森の米兵捕虜収容所や落合の聖母病院の連合国民抑留所などは、かなり飛行機が降下して撮ったのか、手を振るアメリカ人たちが見える。それ以外はひたすら無人の廃墟が続く。空襲の効果を見せる実験写真のようだ。

今の私たちにとって一番近いのは、東北大震災の時の街が流される映像や無人になった街の写真かもしれない。今も多くの地域でこれが続いているのかと改めて思う。

8月30日に米兵が横須賀や富津に上陸してからは、一挙に街の中から撮られた写真になる。例えば9月2日の新橋駅の銀座口には何もなかったかのように、多くの日本人が歩いている。あるいは9月18日の東京駅のプラットホームにはMPのヘルメットをかぶったアメリカ人たちと普通にホームから降りる多くの日本人がなにげなく一緒に写っている。

10月8日の銀座の写真では、たぶん大雨で水びだしの街頭で、スカートをまくった少女たちと石の上に立って煙草を手に持った米兵が仲良さそうに見つめあっている。いったい戦争とは何だったのだろうか。

10月6日の写真には焼け焦げになった三越のビルが手前に写り、その向こうに和光の時計台がきちんと見える。下の方にはやはり普通に歩く人々が見える。

もう1つおもしろいのは、空襲の後で建物がなくなり、東京が水の都であったことがよくわかることだ。ことに銀座、日本橋、築地、芝といったあたりは川だらけだ。いつの間にか、我々はそれを埋め立てたり暗渠にしてきた。これらの写真を見ることで、この戦後70年を再考できそうな気がしてきた。何もない大地を見つめることから、ひたすら建築物を作ってきた発想を少しは改められるのではないか。

ところどころに今の地図があって、写真が撮られた位置を明示しているのでわかりやすい。質感のある紙にちょっとセピア調に刷った写真の感触がいいし、なにより単行本サイズなので持ち歩くこともできる。今度これを持って銀座に行こうかな。ここには、個人を超えた「東京のノスタルジア」がある。

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コメント

この写真集、買いたくなりました。東京ノスタルジアと言えばやはり映画に勝るものはありません。川島雄三の銀座二十四帖を見ていて、月丘夢路のいる料亭の前の通り、カーブの具合がどこかで見たことあるなあと思っていたら、松竹から朝日新聞社に向かって少し下ったところでした。いまの高速道路、昔は築地川だったんだなあと、私も東京ノスタルジアでした。

投稿: 石飛徳樹 | 2016年2月16日 (火) 09時41分

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