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2016年3月 8日 (火)

『若き詩人』のきらめき

既に東京では2月に劇場公開が終わってしまったが、ダミアン・マニヴェル監督の『若き詩人』をDVDで見た。実は昨年末にDVDをいただいていたが、どういうわけか私のデッキでは再生できず、当時のパソコンでは容量が大きすぎて止まってしまった。

1月になってパソコンを新調したので見ようと思ったら、今度はDVDが見当たらない。最近風邪をひいて自宅に籠っている時に部屋を整理していたら、ようやく出てきた。これがなかなかの秀作で、もっと早く見てみんなに宣伝すればよかった。

タイプとしては、同じフランス映画の『やさしい人』に近い。若者が一人で放浪し、たいした事件もおきないまま時間が過ぎてゆくだけ。それでも見ているとみずみずしい画面に引き寄せられてゆく。

『若き詩人』は文字通り、若い詩人の話。レミは海辺の街にやってくる。彼は時折小さな手帳を開いては、詩を書く。いろいろな人々に出会うが、とりわけカメラを持って彼の写真を撮った娘に惹かれる。一緒に美術館にも行くが、彼女は「こんな小さな街だからまた会うわ」と連絡先をくれない。

詩を見せて知り合った青年と海に行ったり、バーにいって年配の女性の話を聞いたりして時は過ぎ行く。彼女が住んでいるといったあたりで、大声で「レオノール!」と名を呼ぶと、2回目に彼女と出会うことができた。即興で愛の詩を作り、歌にして告白をするが、彼女の心は動くふうでもない。

それだけの話なのに、すべてがきらめいている。主人公の青年は本当にいそうな感じで、自然な優柔不断さがいい。レオノールも心を決めかねている無垢な娘を魅力的に演じている。告白の歌を聞いた後のアップがいい。

そしてなにより、この坂の多い港町が魅力に満ちている。遠くからいつも森の鳥や海のかもめの声に混じって、船の汽笛が聞こえてくる。レミはひたすら歩き、酒を飲み、詩を書く。気がつくと海が見える墓地のベンチに座っている。朝も昼も夜も。現代社会にこんな素直な人間がいるのだろうかという感じ。考えてみたら、スマホはおろか、ネットも電話さえも出てこない。服装を別にしたら、何十年も前の話でも通用するだろう。

映画が終わって青い画面が現れた時、不思議な幸福感が訪れた。チラシにはジャック・タチやフランソワ・トリュフォーを思わせると書かれていたが、私にはこの幸福感というか多幸症ぶりは、むしろジャック・ロジエの映画に近いように思えた。

いずれまた上映機会があると思うので、その時は劇場で見たい。

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