パリに着いても日本の話:その(2)園子温とマイケル・ムーアの新作
日本で最後に見た試写2本について書き留めておきたい。5月14日公開の園子温監督『ひそひそ星』とマイケル・ムーア監督の『マイケル・ムーアの世界戦略のススメ』。どちらも有名なお騒がせ監督だが、今回はちょっと違う。
『ひそひそ星』は、最近はエネルギー全開で性や暴力の物語を繰り広げていたこの監督とは思えないほど、静かな映画。まずモノクロだし、登場人物はほぼ神楽坂恵演じる宇宙宅配便の配達員一人で、コンピューターと文字通り「ひそひそ」と話す。
設定は、大きな災害を繰り返して人類が滅亡しつつある時代。アンドロイドの配達員の鈴木洋子は、日本の安アパートのような内部の宇宙船に乗って、荷物を1つずつ人間に届ける。そこに広がるのは、原発事故後の無人の世界だった。
何度も出てくる福島の風景が胸を打つ。人の住んでいない家や店、あちこちにススキが茂る。カメラはそれらをゆっくりと静かにとらえてゆく。
神楽坂恵はエロチック路線を封印して、配達員の地味な服装。そもそも宇宙船がいかにも昭和な感じで、記録のためにオープンデッキを使っているほど。そして終盤には、影絵を使った思い切り詩的なシーンが展開する。
今回は監督の「シオン・プロダクション」の第一回作品というが、自主映画に戻ったような感じだ。全体に思わせぶりな感じが気になったが、何とも興味深い作品。
『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』は、権力に対してアポなしでカメラをぶつけてきたムーアが、路線を変更して、外国の素晴らしいところを学びにいく話。一応設定は、国防総省に依頼されて、各国の常識を根こそぎ略奪して持って帰るというものだが。
訪れて紹介するのは、イタリアの休暇の多い労働者、フランスのおいしい給食、フィンランドの宿題のない教育、スロベニアの無料の大学、ドイツの労働者を守る環境、ポルトガルで麻薬が犯罪にならないこと、ノルウェーの豪華な刑務所、チュニジアとアイスランドの女性進出などなど。
さすがにマイケル・ムーアだけあって、全く退屈させない。映像は目まぐるしく変わり、アメリカの対照的な映像も挟み込まれる。
各国のいい面だけを見せている感じがどうしても出てしまい一本調子だし、ムーアの映画にしては毒が薄い。もちろん、アメリカの観客にとっては外国のこうした映像が大きな毒になるのかもしれないが。日本も出てきたらさらにおもしろかったのにとも思った。
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