『団地』の衝撃
去年一番驚いた邦画は『ハッピーアワー』だったけれど、それに近い衝撃を受けた映画を見た。6月4日公開の阪本順治監督の『団地』で、『ハッピーアワー』とは全く逆方向の芝居じみた演出だが、その展開に唖然とした。
映画はヒナ子(藤山直美)と清治(岸部一徳)の住む団地を写す。彼らはそこに半年前に移ってきたようだが、ずいぶん古い団地で空き部屋も多い。ある時清治はちょっとしたことをきっかけに、床下の収納庫に潜ってしまう。それをめぐって住民は騒ぎ出し、自治会長の行徳(石橋蓮司)やその妻(大楠道代)も大慌て。とうとうテレビや警察もやってくる。
こう書くと、まず『大鹿村騒動記』を思い出す。藤山以外は出ていたし、老人が集団で騒ぐ映画だから。あの映画にも途中からシュールなところがあって、コメディながら不思議な魅力を出していたが、この映画はそのブラックユーモアが全開になった感じか。
とにかくセリフの一つ一つに笑い、考えさせられる。藤山がしゃもじを持って中島みゆきの「時代」を歌ったり、森の中で「ガッチャマン」を歌う少年が出てきたり、歌も楽しくおかしい。そして物語は後半に予想外の展開を遂げる。なんとSFになってしまうのだから。大阪弁だらけの、時代から取り残された古い団地の話に宇宙船が出てくるなんて、もうびっくり仰天で開いた口がふさがらなかった。
どこか嘘っぽい、ちゃちなSFなのに、ファンタジーとして見たら悪くない。あの宇宙船はフェリーニがセットに作った海のようなものだと思えばいい。現代社会をとらえた極めてシリアスなドラマなのに、ユーモアがたっぷり。リアルな表現が、強烈な笑いを通じてファンタジーに向かう。
阪本監督のオリジナル脚本というが、とにかく手練れの妙技としか言えない。彼の映画でこれまでになかったスタイルであり、まさに新境地ではないか。融通無碍とはこのこと。こんな作品がカンヌやベネチアに出たらいいのにと心底思う。ベタで日本的に見えるが、実は映画の普遍性に通じているから。ひょっとすると、今年の邦画ナンバーワンになるかもしれない。
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