樹木希林の融通無碍
是枝裕和監督の新作『海よりもまだ深く』の試写を見た。これが、阪本順治監督の『団地』と同じく、いわゆる団地を舞台にしたものだった。もっとも阪本作品は大阪の幽霊の出そうな古ぼけた郊外団地で、こちらはいくつもの団地が立ち並ぶ実際の今の清瀬が舞台。
『団地』は芸達者たちの熟練の演技からシュールな場面が立ち現われたが、『海よりもまだ深く』はダメな中年男(阿部寛)を中心に、その母(樹木希林)や姉(小林聡美)、そして元妻(真木よう子)や息子たちが繰り広げるリアルな会話劇。
是枝監督は自ら脚本を書くが、いつもセリフのうまさに驚く。とりわけ今回は、樹木希林が即興のような演技から繰り出すセリフに舌を巻いた。「なんで男は今を愛せないものかしらね」とか「人生なんて単純よ」とか。半分ボケているようで、すべてを見通しているようで、まさに融通無碍とはこのこと。
阿部寛演じる、売れない小説家で探偵事務所に勤めている中年男は、見ていて痛々しい。ハンサムな俳優なのに、情けなさを全身から発している。夢に手が届いて文学賞がもらえたのに、その運が続かないと人間はこうも落ちぶれるかと思いながら、自分のことを考えて不安になった。阿部が探偵事務所で会う女性客の「どこで狂ったんやろ、私の人生」という言葉が突き刺さる。
それを、何を考えているかわからないような樹木希林が受け止める。姉役の小林聡美や元妻役の真木よう子は実に現実的で未来志向で阿部と好対照だが、どこかで優しく見守っている。その一方で探偵事務所の社長役のリリー・フランキーや若手社員役の池松壮亮が、阿部を支える。
見た印象としては、好きな『歩いても 歩いても』(08)に近い。樹木希林を頂点とした会話の間を楽しめる。『歩いても 歩いても』の「ブルイーライトヨコハマ」を思わせるのが、ラジオから流れるテレサ・テンの歌(題名は失念)。
『そして父になる』や『海街diary』の流麗なカメラではなく、もっとリアルな撮影。あとでプレス資料を見たら、実際に撮影監督がこの2作と違って、『誰も知らない』や『歩いても 歩いても』の山崎浩に戻っていた。
これまでの2作と同じく、フジテレビとギャガの製作だが、『海街diary』と違って今回は製作や配給に東宝の名がない。撮影監督が変わったことも含めて、より個人的な映画だったからだろうか。
5月21日公開というから、5月11日~22日のカンヌ合わせだろうが、コンペに出るだろうか。今年は私もカンヌに行く予定。
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