グラン・パレの「カランボラージュ」展とは?
グラン・パレで「カランボラージュ」展を見た。1995年の映画百年以来の友人のフィリップ君が、メールで勧めていたから。ポンピドゥ・センターの元学芸員のアランさんが、ある夕食会でけなしていたことも気になっていた。そもそも「カランボラージュ」とは何か。
画家や彫刻家の名前ではない。もともとビリヤードの言葉で、玉がいくつもぶつかることを言う。普通は「車のカランボラージュ」と使うらしいから、「玉突き衝突」展と訳したらいいだろうか。
いったい何事かと思ったら、会場に着いて入口で企画者の名前を見て合点がいった。ジャン=ユベール・マルタンさんで、1989年にポンピドゥ・センターほかで開いた「大地の魔術師」展で話題になった人である。勅使河原宏(竹のインスタレーション)や河口龍夫、宮島達男などが参加したこともあって、日本でも雑誌などに取り上げられた。
アフリカやアジアの仮面や民族衣装を、現代美術と一緒に展示した展覧会で、いわば1990年代以降のマルチカルチュラリズムというかポスト・コロニアリズムというか、そんなものを見せた先駆的な展覧会と言われた。
あれから27年だが、発想はほとんど変わっていない。つまり、インドネシアの骸骨を使ったお守りの横に、北斎のお岩さんの版画を並べる。あるいは17世紀のスイスの教会の死を示すタピスリーの横に、フランスの現代作家のアネット・メサジェールの色鉛筆と黒い手袋を使った大きなインスタレーション。
「大地の魔術師展」との違いは3つ。1つはそれぞれの部屋の展示に、「死」とか「動物と人間」とか「裸」とかテーマのようなものが感じられること。見ていると、作品同士が時空を超えて連関しあう(つまり「玉突き」)のがよくわかる。
2つめの違いはキャプションがないこと。キャプションは各部屋の境にあるビデオ画面にまとめられているので、それをじっくり見ればわかるけれど、作品の横にはない。純粋に作品を見て連関を考えるという点ではいいが、やはり作品ごとにキャプションは見たい。
実はこの展覧会のスマホ用アプリが入口に表示されていたので、ダウンロードした。すると、各作品の題名や所蔵先まですべてわかる。スマホ画面を見ながら展覧会を見ると、なかなか楽しい。平日の朝なので年配の客が多く、ほとんどがスマホを持っていなかったので、「何が何だかわからない」との声はあちこちで聞いたけれど。
3つめの違いは、多くが美術館や博物館の所蔵品であること。2006年にアフリカやアジア、オセアニアの原始的な美術を集めてオープンしたケ・ブランリー美術館など、最近はいわゆる「美術」以外の作品を収蔵している美術館や博物館が増えた。だからこういう展覧会も企画しやすいのだろう。
そんなこんなでおもしろかったが、マルタンさんは27年前の展覧会で有名になって、一生それで食っているのだろうか。いいなあ。この展覧会は7月4日まで。
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