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2016年4月 7日 (木)

アート系映画館で新作2本

フィリピンのブリランテ・メンドーサ監督の新作「タクルブ」Taklub(英語題はTrap)をバスで15分ほどのリュクサンブールの劇場で見た。昔、よく通ったアート系映画館。ほかの映画館のように入場料をクレジット・カードで払おうとしたら、ダメだった。

「タクルブ」は、2013年にフィリピンの海岸で起きた地震の悲劇を描くドキュメンタリー・タッチの作品。子供3人を亡くしたノラ・オノール演じる母親が一応主人公だが、映画は地震の直後からの人々の様子をバラバラに捉えてゆく。

これまでのメンドーサの映画と比べて、物語らしい物語はない。けれどいくつものシーンが強烈に残る。母親は行方不明の息子ノノのマグカップを割ってしまい、必死でボンドで張り付ける。キリストの小さな像が土の中から出てくる。みんなで海岸にろうそくを灯し、ギターを弾いて踊る。壊れた家から必死でものを盗もうとする男と、それを見つけて殴って殺そうとする男。

フィリピンにこれほどキリスト教が根付いているのかと改めて驚くほど、教会の祈りや牧師たちの行列などのシーンも多い。キリスト教がフィリピンの土俗的な祈りと入り混じって、とんでもない力を及ぼしているようだ。去年のカンヌの「ある視点」に出た作品だが、東北大震災を考えると、日本では劇場公開はおろか映画祭での上映さえも微妙かもしれない。

本当ならば、これほど直接的に大胆に地震と津波の被害を描いた映画だからこそ、日本で公開してほしいと思う。日本では多くの震災をめぐってドキュメンタリーや劇映画が作られたが、この映画のように劇映画で地震そのものを描いたものはないように思う。多くは震災後の精神的な問題を取り上げていた。

海岸の掘っ立て小屋で暮らしている人々が、家を壊され、家族を失いながらも、みんなで力を合わせて生き延びている様子が、てらいもなく、ごく自然に描かれている。その生きる力のすばらしさは、きっと被害にあった人々の心にも届くのではないか。見終わってその宗教的ともいえるパワーに呆然としながらも、そんなことを考えた。これはやはりロッセリーニに近い。

エマニュエル・ブルデュー監督の新作「セリーヌ」も見た。監督はデプレシャンの映画などで脚本家として有名だし、ピエール・ブルデューの息子でもあり、ドニ・ラヴァンが作家ルイ=フェルディナン・セリーヌを演じるので期待したが、ちょっとがっかり。

1948年、アメリカ人のミルトン・ヒンダスが、ナチ協力の疑いでデンマークに逃れていたセリーヌを訪ねる物語。ドニ・ラヴァンは気性の激しいセリーヌを怪演していておもしろいいが、全体としては単調。セリーヌとその優しい妻とアメリカ人のヒステリックな物語に疲れてしまった。

見たのは、ダンフェル・ロシュローのアート系映画館。ここも昔よく通ったが、今のアパートから歩いて10分強。32年前に通ったアート系映画館が、ほとんど潰れていないのに驚く。日本ではありえない。ここでもノスタルジアにふける。

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