「アルモリカ組曲」の新しさ
パスカル・ブルトンというフランス女性監督の新作「アルモリカ組曲」Suite Armoricaineを、ソルボンヌ大学そばのアート系映画館で見た。パリ在住の日本人の友人に勧められたからだが、今回来てから見たフランス映画では一番良かった。
「アルモリカ」とはブルターニュ地方を指す古語だが、映画はそこのレンヌ大学が舞台。パリから逃れるようにして赴任してきた中年の美術史の女性教授フランソワーズを描く。彼女はもともとレンヌの出身で、そこには幼馴染があここちにいた。ある日、彼女の授業に青年ヨンがやってくる。彼はフランソワーズの幼馴染のムンの息子だった。
パリからときおりかかってくる恋人からの電話と、幼馴染たちとの再会と、父母や祖父母を思い出させる森や湖が交錯する。ヨンは目の不自由な娘リリーを好きになるが、縁を切ったはずの母親やその男友達が訪ねてくる。
2人の孤独で複雑な毎日を、カメラがしつこく追いかける。そのうえ、3つのできごとが、2人の別々の視点から語られる。それにフランソワーズが過去に撮った仲間たちとの写真や幼い頃の思い出が重なってゆく。
いくつものシーンが印象に残る。旧友の住む高層マンションでロックに合わせて踊るフランソワーズと女友達。目の不自由なリリーを肩車にして歩くヨンに嬉しさを隠せないリリー。終盤に車で森の中をドライブするフランソワーズとヨンの眩暈のする旅。
大学から母のムンは亡くなったとヨンは教えてもらう。あるいはフランソワーズはヨンが死んだと聞く。死や生を超えるように組曲は続いてゆく。同じような繰り返しのうちに、いつしか変化してゆく。
見ていてその神秘的な映像と音楽にうっとりしてしまった。パスカル・ブルトンという監督は名前の通り、ブルターニュ出身というが(ブルトンはブルターニュ人を指す)、デジタル時代にこそ生まれた、新しい地方映画というべきだろう。
この映画は果たしてフランス映画界で話題になっているのだろうか。去年のロカルノ映画祭のコンペに出て、国際批評家連盟賞を取ってはいるが。監督は1960年生まれというから私の世代だが、まだ長編2本目という。ぜひ日本でも紹介してほしい。ちなみに主演のフランソワーズを演じるヴァレリー・ドレヴィルは、ゴダールの『カルメンという名の女』(1983)に出ていたので懐かしかった。33年ぶりだが、美しかった。
ちなみにSuite Armoricaineという原題を私は友人から教えてもらって、Suite Americaine(アメリカ組曲)と早とちりして覚えてしまい、窓口で大恥をかいた。アメリカ的なものを期待して、勘違いして見に来たアホなアジア人と思われたに違いない。
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