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2016年5月 8日 (日)

アラブをめぐる室内劇2本

アラブやイスラエルの映画は、フランスだと関係が深いのでたくさん見ることができる。偶然に監督第1回長編の室内劇を2本続けて見た。1本は、去年のカンヌの批評家週間で話題になったというパレスチナ映画「デグラデ」Degradeで、オデオンの映画館で見た。アラブとタルザンのナサール兄弟の第1回作品だが、なかなかうまい。

ガザ地区の広場に面した美容院が舞台。そこには10名ほどの世代や階級や立場を異にする女たちがいる。外には動物園から盗み出されたライオンが美容室の前に座っていて、不穏な雰囲気が立ち込めている。

結婚式のための髪を整える若い娘とその家族。待っているうちに産気づいた女、離婚して言いたい放題の女、ハマス軍に狙われた男を愛する美容院の娘、ロシア出身のクールな女店長など、それぞれがドラマを垣間見せる。各自が携帯電話やスマホで外と連絡する。

外の様子はだんだん危なくなってくる。銃声が激しくなってシャッターが下ろされる。その中で妊婦はいよいよ出産が近づき、美容院の娘は逃げ込んだ恋人をかくまう。そこへハマス軍が強引に入ってくる。

外の銃声や音楽を巧みに取り入れながら、それぞれの女たちの人生を垣間見せる手法はうまい。写っているのは女たちのおしゃべりなのに、空間の緊迫感はビシビシ伝わってくる。お金をかけずに、政治的な問題を日常の中から提示している。

これが長いときついが、83分という上映時間もいい。カンヌ後に各国の映画祭で上映されていくつも賞を取ったというけれど、パレスチナの監督の第1回作品として、いかにも世界に出やすい映画かも。題名の「デグラデ」とは仏語で「グレードダウン」という意味で、映画では退廃的な髪形を指す。

「一つの石から2回」D'une pierre deux coupsは、これまでリヴェットの『彼女たちの舞台』などに出ていたアルジェリア系女優、フェイリア・ドゥリバの第1回長編。75歳のアルジェリア生まれの老女ザヤンが、ある時手紙を受け取ると、これまで一度も街から出たことがないのに、忽然と旅に出る。その日は11人の子供たちが集まる日だったが、彼女はいない。

母の家に次々と集まってくる11人のアルジェリア系の子供たち。母の昔の写真やビデオなどを見つけて大騒ぎになる。その一方でザヤンは初めて列車に乗り、何とか目的の場所にたどり着くと、そこには女が待っていた。

要するに、アルジェリア時代の恋人が託した遺品を受け取りに、恋人の妻となった女の元へ行くわけだが、ザヤンを演じる女性の、人生に一度のような迷いのない強い行動力に心を打たれた。その頑固な態度に、私はなぜか自分の母を思い出した。

「デグラデ」ほどの衝撃はないが、悪くない。これまた85分という短さで、これも賢明な作り方と言えよう。

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