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2016年5月 6日 (金)

『殺意の瞬間』に腰を抜かす

ジュリアン・デュヴィヴィエの『殺意の瞬間』(1956)に腰を抜かした。最近通っている復元版専門の映画館「レ・ファヴォット」で見たが、トリュフォーがこの監督で一番好きな映画とどこかに書いていた。今回は去年4Kでデジタル復元したもので、白黒の陰影が素晴らしい。

物語は、パリの古いレストランのオーナー・シェフ、シャトラン(ジャン・ギャバン)のもとに、娘と名乗る若い女性カトリーヌ(ダニエル・ドロルム)が現れるところから始まる。レ・アールの市場の遠景に始まり、彼女は地下鉄のレ・アール駅を降りて、ベルジェール通りの場所を聞いて市場を横切って歩く。レストラン「オー・ランデヴー・デ・ジノサン」の戸を開けるが、シャトランは最初は冷たい。

その前に彼女が市場から果物をこっそりくすねるショットから、この女は怪しいとわかる。しかしシャトランは妻が死んだと聞いてかわいそうに思い、自宅に泊める。シャトランは郊外でレストランを営む母に紹介するが、母はどこか気に入らない。

カトリーヌはシャトランが可愛がる医学生ジェラール(ジェラール・ブラン)と仲良くなるが、一方でシャトランの財産を狙って結婚する。ある男の出現で妻が死んだという嘘がばれて、シャトランは怒り出すが、カトリーヌはシャトランの殺人を企ててジェラールに助けを求める。

機嫌のいい時のジャン・ギャバンのシェフ姿が何ともさまになっていいが、例えば死んだはずの妻に再会した時の怒りの表情はすごい。遠くで汽笛が鳴る。あるいは協力を拒むジェラールを殺そうとする時の犬の吠え声とその後のカトリーヌの強烈な泣き笑い。そしてラストでカトリーヌが2階で犬と閉じ込められた瞬間のアコーディオン。

たぶん一度も昼間のシーンはなく、ほとんどが夜か早朝か夕暮れの暗いシーンばかり。そこでレストランの2階やシャトランの実家の2階や妻の住む安ホテルの2階とその階段が大きなサスペンスを呼ぶ。メルヴィルやクルーゾーと同じくらい高いレベルのフレンチ・フィルムノワール映画の傑作だった。

殺人と共に映画がいきなり終わった時、観客は誰も立てなかった。みんな数分間はあっけにとらわれていた感じ。デュヴィヴィエというと、ヌーヴェルヴァーグが批判する伝統的なフランス映画の監督のように思われがちだが、やはりそんなに簡単ではない。

調べてみると、脚本には、監督のほかにモーリス・ベシーとシャルル・ドラが加わっているが、モーリス・ベシーはルノワールの評論を書いているし、シャルル・ドラは『アタラント号』などにも出ている俳優でもある。よくわからなくなってきた。

ちなみにこの映画で、アメリカ人客がボルドーの高級白ワインのシャトー・ディケムを注文するが、その時にジャン・ギャバンは係に「どうせわからないから、モンバジヤックでも出しておけ」と命じるシーンがある。誰かがワインの本でこのことを指摘していたが、この映画のことであった。

もう一つ、冒頭に今はなきレ・アール市場のロケがあるのがいい。70年代末に市場がなくなってショッピングセンターになり、私が84年にパリに着いた時は若者が集まる最先端の街だった。最近再改装が半分終わって仮オープンしたが、今の変貌ぶりが本当に信じられない。


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