パリの変貌:その(1)
今回パリに来て、変わったなあと思うことはいくつかある。まずは、日本料理店が増えたこと。これは25年ほどから6区のリュクサンブール公園近くのホテルに泊まっていた頃から感じてはいたが、13区の庶民の街にも溢れているとは思わなかった。
中華料理店やベトナム料理店の、半分近くはくら替えしたのではないか。そういう店はすぐにわかる。まずカラーの絵入りのメニューが外に張られていて、だいたいOsakaとかNagoyaとかKanazawaとか地名がアルファベットで店に使われている。YakijapoとかTokyoyakiとか意味不明の店名も多い。
最近はパリでも料理の宅配が増えているが、私のアパートに入ってくる料理の宅配のチラシで一番多いのは、実は日本料理。だいたい寿司や巻き寿司と焼鳥が中心だが、餃子Gyozaとかエビフライとか唐揚げとかコロッケとかもある。手元にあるチラシの店名は、Yomi SushiとToyotomy。「トヨトミー」とは何だ。
実は今回、久しぶりに会う年上のフランス人に自宅に招待されて行ってみたら、宅配の怪しげな寿司がところ狭しと並んでいた。もちろん私のために用意してくれたのだ。私は大いに感激する振りをしないわけにはいかなかった。「ちょっと違うけど、おいしいおいしい」と言いながら。
ある時これも久しぶりのフランスの友人と会うことになったら、向こうが「中国人のやっているうまい寿司屋」を指定してきた。こちらは同世代でかつてかなり親しかったので「すまん、それは止めよう。理由は会った時に話すから」と言って、インド料理店に変えてもらった。
フランス人でそうした「ニセ日本料理店」に顔をしかめるのは、ごくわずかの日本通だけだ。「おいしいし見た目も綺麗だし、カロリーが少なくて健康的だから流行るのは当然」くらいにしか思っていない。
興味深いのは、日本がかつてのような「ジャパン アズ ナンバーワン」の頃、つまり1980年代後半には全く日本食は流行ってなくて、日本経済が黄昏にある今の方がポピュラーなことだろう。日本映画の受容にしたって、今の方がずっと進んでいる。
1980年代の日本は、たぶん今の中国のように「ブイブイ」言わせていたのではないか。政府もビジネスマンも観光客も。ところが今の日本人は、少なくとも観光客は中国人やロシア人に比べたらずいぶん品がいいので、好感が持てる。
日本料理が人気なのは、そんな一歩引いた感じの日本のスタンスが好感を呼ぶからではないか。そんなくだらないことを考えている。
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