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2016年5月23日 (月)

31年ぶりのカンヌ:その(8)

賞が発表される前日の土曜日にパリに戻った。コンペと日本関連を中心に話題のなりそうな映画は見たから、記事は書ける。パリに着いて驚いたのは、街全体が暗いこと。

もちろんたまたまカンヌは快晴で、パリは曇りだったこともある。それだけでなく、立ち並ぶアパルトマンやレストランがどこか埃っぽく、灰色がかっている。そして翌日の今日は朝から雨。カンヌの喧騒を思い出して寂しく思う反面、この「暗い日曜日」にどこか安堵もしている。

さて、今日の夜は発表だが、その前に2本の似通った設定のコンペ作品について触れておきたい。イランのアスガー・ファルハディの「セールスマン」Salesmanと、ポール・ヴァーホーベンの「エル」Elle。

魅力的な女性が、自分のアパートに侵入した何者かによって暴力を受ける。しかし主人公たちは警察には届けず、独自の調査をする。これがこの2本に共通する設定。

ところが展開も雰囲気も結末も演出も全く別物。「セールスマン」は、演劇をする若い夫婦を描く。夫は高校の教師だが、家に帰ると妻が大けがをして倒れていた。夫は残された鍵から車を洗い出し、持ち主を見つける。ところが妻は夫のやり方に疑問を抱き始める。

夫婦はアーサー・ミラーの「サラリーマンの死」の公演中だが、演劇と犯人探しと夫婦のずれが同時に進行し、そこに真犯人が加わって物語は思わぬ方向に行く。ファルハディらしい息を飲むような展開だが、今回は演劇もあり、少し知的に傾いたか。

「エル」には心底驚いた。冒頭はレイプシーン。やられる女性はイザベル・ユペールだが、どこか落ち着いている感じで、警察に届けない。バイオレンスとスリラー映画かと思いきや、これが全く違う。

ゲーム会社の重役のユペールのまわりで、幾重にもいささかグロテスクな恋愛劇が展開する。ユペールの元夫は若い恋人を見つけ、ユペールは一番の女友達の夫と関係が始まる。さらに職場の若い男にもセクハラをする。ユペールの息子は恋人を見つけるが、生まれた子供の肌は黒い。

その全体の奥に暴行犯がいて、これが実はという話。女性の欲望を肯定し、不倫を当然とし、キリスト教をからかい、黒人を笑いのネタにする。強姦を冷静に受け止めるユペールが、だんだんまともに見えてくる。ヴァーホーベン監督はオランダ出身だが、『氷の微笑』や『トータル・リコール』などのハリウッド映画で名高い。映画はすべてフランス語だが、これはハリウッド映画としては作れないだろう。

「カイエ・デュ・シネマ」誌最新号のインタビューを帰りのTGVで読んでいたら、彼のインタビューで「ルノワールの『ゲームの規則』が頭にあった」とあってびっくり。確かに似ている。

女性中心のこの映画は今回の審査委員長のジョージ・ミラーや審査員のドナルド・サザーランドなどにウケるのではないか。そんな予想をしておこう。

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