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2016年6月22日 (水)

ジャン・ドゥーシェとフランス映画2本

先週末にシネマテークで「ジャン・ドゥーシェとの週末」という企画があった。ドーシェはここにも書いた通り、フランスの映画批評の巨人で今年87歳だが、私にとっても師のような存在。土日の午後2時半と7時半に彼が選んだ計4本の映画を上映し、その後に彼が語り、観客の質問を受けるというもの。

選んだのは、ジャン=ピエール・メルヴィルの『影の軍隊』(1969)、ジャン・ルノワールの『この土地はわれらのもの』(1943)、ポール・バーホーヴェンの『ブラック・ブック』(2004)とジャン・グレミヨンの『大空はわれらのもの』。

テーマは、レジスタンス運動。なぜなら初日の土曜日が6月18日で、この日は1940年にドゴール将軍がイギリスからフランス国民にレジスタンスを呼び掛けた歴史的な日だからという。

実は私はこの日のことも知らなかったが、とにかくドーシェの晴れ舞台ということで『影の軍隊』と『大空はわれらのもの』の2つの回に行った。

『影の軍隊』は昔見た時は、ずいぶん陰鬱で退屈な映画だと思った。ところが今回見てみると、陰鬱には違いないが負けてゆく人々を描くサスペンスと痛みに満ちた作品だった。

リノ・ヴァンチェラやシモーヌ・シニョレ、ポール・ムーリスらの、死を恐れない存在感がすごい。全く未来が見えないのに、最善を目指して突き進む。夜のシーンが大半を占めるが、青や緑に見える夜の光が彼らを包む。その中を歩き続ける。

有名な女性闘士マチルドを演じるシモーヌ・シニュレが凄まじい。彼女が変装をするだけで、ドキリとしてしまう。彼女が仲間に殺された時は、本当にまさかと思った。

ドゥーシェは「アクション映画を目指したメルヴィルが、アクションに失敗する人々を描き、人生や死そのものを浮かび上がらせた」と解説した。

『大空はわれらのもの』は、ドゥーシェが最初にふと漏らしたように「ジョン・フォード的映画」だった。飛行機乗りに情熱を燃やす夫婦を描き、そこに車や列車といった「乗物」があちこちに出てくる。ピアノさえも地面に叩きつけられる。全体が「動く」ことに突き動かされたような映画だった。

とりわけ、飛行機に夢中になって、お金を作るために子供のピアノまで売ってしまう妻を演じるマドレーヌ・ルノーの変貌ぶりが印象に残る。まさに、情熱に突き動かされている感じ。ただこれがレジスタンスの時期に作られ、フランス人に独立を呼び掛ける裏の意味があったとは、これまで考えたこともなかった。

妻の母が「仕事、家族、祖国」というペタン政権的な精神を表し、愛と情熱に生きる夫妻がそれに抵抗して勝ち、空を羽ばたくという筋書きというが、そう言われると細部に至るまでそういう気がしてくる。このように映画の見方を変えてくれる批評家は、やはりすばらしい。

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