パリジャンの日常:その(6)
もうパリに戻ったので、再びパリの話をしたい。ニューヨークに比べても、ここには明らかに1人者が多い。1人で犬の散歩をしている姿が多いのは、32年前と同じ。ところが、夜にレストランで1人で食べている人は、まずいない。しかし、昼のランチや夕方のカフェのテラスには、1人も少なくない。
なぜか、アジア系のレストランの昼には、1人の客が普通のフランス料理店やカフェより多い気がする。私がよく1人で昼を食べるのは、近所の韓国料理店、インド料理店、レバノン料理店、クスクス屋さんなどだが、昼食はフランス人が男女ともによく1人で来る。
本当はフランス料理よりもこちらが好きだが、職場や家族のみんなの賛同を得られなくて、1人で来るのだろうか。ある時などは、よく行く「ミス・プルコギ」という韓国料理店で、昼に来た5人ほどの客全員が1人だったこともある。『孤独のグルメ』という日本の漫画も仏語訳が出ているくらいなので、アリなのだろう。
夕方、天気のいい夕方にカフェのテラスで1人で過ごす人も多い。多くは本か新聞を読んでいる。昔はこれがワインやパスティスだったが、今は圧倒的にビールになった。これはこの30年で大きく変わった。ビール1杯を、本当にゆっくりちびちびと飲む。
せっかちな私は、ビールが来たらすぐに飲んでしまうのでこれができない。そもそも本をカフェで読むのは苦手。私の住んでいる庶民的な地区ではなさそうだが、カバンやスマホなどを盗まれて逃げられたらといつも心配しているせいもある。
おおむね、昼に友人と食事がある時は夜は自分で作り、夜が会食なら昼は自炊する。誰にも会わない日は、昼は外食で夜は家で作る。曇りや雨の日に、家の中でじっとしていると気が滅入るが、買物や料理はいい気分転換になる。
たまに突然入口のドアを叩く音がすることがある。大家さんか宅配便の時は事前にわかっているが、何も想定していない時に「ドンドン」と叩かれると怖い。呼び鈴もないので、戸を叩く乱暴な音がする。もちろん映像付きのインタフォンなどあるわけもなく、恐る恐る少しだけ開けるしかない。
1度目は、出前の間違いだった。アジア人の若者だったので、流行りの寿司の出前かもしれない。2度目は、「アンケート会社です」とのことで断った。3度目は煙突掃除の売り込みで、ワケがわからなかったので、「大家さんに聞いてくれ」と戸を閉めた。もう1度は、天井から水が漏れるということで、聞いてみたら私の下ではなかった。
2度目からは、戸を開ける前にわざと英語で「フー、イズ、イット?」ということにした。アンケート会社も煙突掃除もほぼそれで帰りかけた。フランス語ができるとわかると、話が長くなる。
そんなこんなで、何十年ぶりの1人暮らしももうすぐ3ヵ月になる。いまだにドアの音がすると、本当に怖い。
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