24年ぶりのロカルノ:その(3)
コンペを中心に見ているが、気になった作品について書き留めておきたい。『風に濡れた女』と「鳥類学者」については既に触れたが、同じくらいおもしろかった映画が2本あった。1つはブリガリア映画の「スラヴァ」Slava、もう1つはオーストリア=イタリア合作の「ミスター・ユニヴェルソ」Mister Universo。
「スラヴァ」は、中年の鉄道員ペトロフの物語。彼は線路点検で見つけた大金を正直に届け出たことで、交通大臣から表彰される。記念品として時計をもらうが、その時に交通省広報部長のスタイコヴァは預かった彼自身の時計を失くしてしまう。それは父からもらった記念の時計だった。
時計を取り戻そうとするペトロフと、失くしたことを隠すスタイコヴァとの戦いが始まり、ペトロフは知り合ったジャーナリストにこのことを話す。貧しい労働者がジャーナリストを使って官僚主義に挑む構造はいささかワンパターンだが、ドキュメンタリータッチで細部を克明に見せてゆく演出には息を飲む。
スタイコヴァは不妊治療を受けていて、病院や夫とのやり取りが巧みに挟み込まれる。ペトロフはテレビで真相を話すが、それに対して広報部長は汚いやり口で対抗し、ペトロフは仲間にも嫌われてしまう。最後はどこに落ち着くのかと不安になるほど盛り上がる。
拍手のないことが多いプレス上映で、大きな拍手が上がった。監督はクリスティーナ・グロゼヴァとヴァルチャノフの2人で長編劇映画2本目。ちなみに題名の「スラヴァ」はペトロフが父からもらった時計のメーカー名で、「名誉」を意味するとは何とも皮肉だ。
「ミスター・ユニヴェルソ」は、サーカスのライオン使いの青年タイロが主人公。ある日、ライオンや虎をうまく使えない自分に気がついたタイロは旅に出る。それはかつて憧れた怪力男、ミスター・ユニヴェルソことアーサー・ロビンに会うことが目的だった。
サーカスや芸人関係の親戚や知り合いを訪ね歩くうちに、ある時タイロは87歳になったミスター・ユニヴェルソに遭遇する。それだけの話だが、素直で優しさに溢れるタイロとその仲間たちの交流に何とも心が温まる。たぶん出てくる人々は全員実名で、手持ちのカメラでほとんどドキュメンタリーのように撮られた作品。
見ていて気持ちがよくなるのは、タイロという人物の魅力だろう。撮る者との相当の信頼関係がないと、あのような素顔は出てこない。監督はティッツァ・コヴィとライナー・フリメルで、これまた男女2人組。全編イタリア語の映画でイタリアの合作なので、来年のイタリア映画祭にはぴったりだろう(大きなお世話か)。
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