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2016年8月27日 (土)

「イン・ザ・ルーム」の現代性

今、アジア映画はどれもおもしろい。アピチャッポンのいるタイやメンドーサのいるフィリピンはもちろんのこと、30年前には映画産業そのものがが存在しなかったシンガポールにさえ、おもしろい映画がどんどん出ている。カンヌで見たボー・ジュンフェン監督の「弟子」apprenticeもそうだった。

最近見たのは、エリック・クー監督の「イン・ザ・ルーム」In the Room。この監督は漫画家の辰巳ヨシヒロを描いたアニメ『TATSUMI』で日本でも知られているが、私は見ていなかった。

「イン・ザ・ルーム」は、シンガポールのホテルSingapuraの27号室を舞台にさまざまな人々を描く、ある種のオムニバス。仏語題はHotel Singapouraでわかりやすい。冒頭、1940年代の日本統治下の英国人の紳士と中国人の男の愛と別れが端正な白黒の映像で出てきて驚く。

それから男を手玉に取るセックスの講義を若い娘たちに教える中国人女性。たぶん1980年代、シンガポールの若い愛人とのアヴァンチュールを楽しむ日本のブルジョア女(西野翔)。男性経験豊富な女(キム・コッピ)と女性を知らない男(チェ・ウシク)という、若い韓国女性のカップル。

その合間に、そのホテルに泊まり薬物中毒で死んだ有名歌手の幽霊と、メイドの女性の純愛も混じる。正直に言って、ドラマらしきものはないし、何を言いたいのかはわからない。しかしながら、それぞれの映像に妙な磁力があり、どこからとなくセックスを軸に日本を含む東アジアの歴史と現在を描く意思が感じられる。

絶賛している「ルモンド」紙は日本女性の男漁りをウォン・カーウェイの映画のようだとし、韓国のカップルのシーンをホン・サンスの映画に例えた。それはよくわからないが、さまざまな演出スタイルを意識的に混在させているのは事実だろう。

たぶん、メイドの女性が鍵だろう。終わりまで見ると、彼女の立場がシンガポールを象徴しているように見えてきた。

去年の映画だが、ひょっとすると日本ではどこでも上映されていないのではないか。こんな映画が東京国際映画祭で賞を取ったらカッコいいのにと、ふと思った。

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