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2016年9月25日 (日)

『怒り』への怒り

帰国して最初に見たのは、李相一監督の『怒り』。前評判がいいし、現在開催中のサンセバスチャン映画祭のコンペにも出ている。見てみると、確かに相当の力作だった。

冒頭に陰惨な殺人事件の現場と捜査の様子が写る。それから千葉、東京、沖縄で3つの異なる物語が始まる。それぞれに過去のありそうな3人の若者が現れるが、3つの物語は混じり合うことはなく、殺人事件との関りが少しずつ示唆されてゆく。

まず、俳優たちの存在感に釘付けになる。東京ではゲイのエリート会社員(妻夫木聡)のもとに現れる綾野剛、千葉に帰った元風俗嬢(宮崎あおい)が好きになる松山ケンイチと娘を心配する渡辺謙、沖縄に引っ越した娘(広瀬すず)が出会う森山未來。

3つの物語が交互に現れる編集の妙といい、それぞれ長回しとアップのカメラで捉える人物像の確かさといい、文句ない。それなのに、あるいはそれゆえに、私は見ていていらいらした。「怒り」に近いものがこみ上げてきた。こんなものをこんなに思わせぶりに撮ってどうするのか。

ある意味で「もったいぶった」話が、「もったいぶった」ような重厚な演出で語られる。それ以上に、それぞれのエピソードでの「個性派」俳優たちの「もったいぶった」演技がえんえんと続く。とりわけ後半になってほとんどの登場人物が泣き出し、叫びだすと、もうやり過ぎの気がした。

出演しているのはそれぞれ主役級の評価の高い俳優ばかり。そのほか、刑事役のピエール瀧と三浦貴大を始めとして、池脇千鶴、原日出子といった演技派が並ぶ。ただし、彼らのことを知らなければ、ずいぶん「文学的」な演技だと思いはしないか。海外から帰ってきてばかりのせいか、私にはそう映った。

帰りの飛行機で見た『64 ロクヨン』の前編にも、少し似た印象を持った。これまた佐藤浩市を始めとして「個性派」俳優が10名以上ずらりと並ぶ。綾野剛だけがかぶっているが、この2本を合わせたら邦画の旬の男優がだいたいいる気がする。こちらの映画の方がずっとエンタメ色が強いけれど、どちらもアート系「顔見世興行」みたいでどこか似ている。

そこには、日本のインディペンデント出身の才能ある監督が、東宝製作でふんだんな予算を使って「名優」たちと組んだ時のある種のカラーが出ている気がした。これらの映画は、海外で高い評価を得ることはたぶんないと思う。

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