これで最後か、ベネチア映画祭:その(7)
コンペ外にも興味深い映画は多い。まず、「アウト・オブ・コンペ」のパオロ・ソレンティーノ監督「若き法王」The Young Popeは、テレビシリーズの最初の2話だけを上映したが、それでもさすがにソレンティーノだけあって、国際映画祭の作品として風格十分。
何より、ジュード・ローを若き法王に選んだのがすごい。およそ一番向いていないそうだから。彼が軽やかな英語で「そんなしきたりはやめましょう」と次々に言っていくのは本当におかしい。彼を守るシスター・マリーは何とダイアン・キートン。
彼に対抗する枢機卿に、イタリアのシルヴィオ・オルランドやスペインのハビエル・カマラなど欧州の名優がずらり。それぞれとのやりとりを交えて少しずつ改革に乗り出すので、シリーズとしてもうまい。今回の終わりに、彼は就任演説を夜の9時からやる。逆光で顔は全く見えず、シルエットだけが写る。「法王は見えなくていい。神を見なさい」という言葉が妙に力強い。
批評家週間のイランのケイワン・カリミ監督Drum「ドラム」には心底驚いた。家を荒らされた男が街を彷徨い、部屋に戻る。恋人が訪ねてきたり、役人がやってきたり。カフカ的な不条理の世界をまるでタル・ベーラのような白黒のシャープな映像で描く。画面が斜めになったり、階段やビルが折り重なったりする映像は、ほとんどドイツ表現主義か。
ちなみにこの監督は、前作のテヘランの壁の落書きを撮ったドキュメンタリーが上映禁止になり、懲役1年と250回の鞭打ち刑が言いつけられている。だから監督は来なかったが、名前の書かれた席に大きな拍手が送られた。この映画はぜひ東京国際映画祭かフィルメックスでやって欲しい。今年のベネチアの最大の「発見」だと思う。
監督週間で上映された、ミディ・Z監督の「マンダレーへの道」The Road to Mandalayも刺激的な作品。ミャンマー出身で台湾に住む監督が、ミャンマーの農村からバンコクに不法入国して働く男女を描く。最低の労働条件で、そのうえ労働許可証をもらおうとあちこちに賄賂を払うが結局偽物をつかまされる。挙句の果ては、全く別の人間になるしかないと悟る。
ミャンマーの人々がバンコクに憧れるという図式は念頭になかったし、なにより必死で生きる登場人物に寄り添ったカメラが実にリアル。これまたぜひとも日本の映画祭で上映してほしい。こんな問題作を平気で見せることが重要だと思う。
実はこの2本は、フランスの映画評論家のフロドンさんのアドバイスで見た。こうした各地の話題作の最新情報が、フランスにはもう流れている。
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