もう、映画を見るヒマもない:その(4)
もうすぐ帰国するとフランス人に言うと、必ず聞かれるのが「滞在はうまくいったか、満足か」「日本に帰るのは嬉しいか、寂しいか」。はっきり言うと、日本に帰るのは実に嬉しい。もう、早く帰りたくてしかたがない。
理由は簡単で、やはり単身の滞在は「不便」だから。日本にいたら、まず大学教授ということで社会的に認知されているから、万事ラクチン。ところがここでは「怪しげな東洋人」でしかない。
フランス語会話は一応できるが、いつも苦労する。特に発音が悪いので、時々聞き取ってもらえないことがあるし、何かを伝えようとして、言葉が出てこないこともザラ。大学に移ってからは、仏語を使う機会がなくなったし。
「怪しい東洋人」だから、いつもパスポートを持ち歩かないといけない。今はテロが多いから、駅などでの職務質問も多い。もしパスポートをなくしたら、手続きが大変。いつも心配していた。
友人が地下鉄でスリに遭ったことは書いたが、日本人は狙われやすい。正直に言うと、地下鉄で安心して本を読むことができなかった。危ない人はいないかと、いつも周囲を見まわしている。自宅の空き巣泥棒も怖い。特に映画祭などで10日くらい空ける時は本当に心配で、金目のものはすべて持って行った。
半年ということで、できるだけモノは増やさなかった。家具付きアパートだから、コップも鍋もナイフも最低限はある。しかし安物ばかりだし、煮込み用の本格的な鍋などはない。でも、何とかあるものだけで我慢した。和食の食材も小さな醤油瓶しか買っていない。
そもそも、毎日食事の心配がある。特に前半は友人も少なかったので、1週間近く誰にも会わないことさえあった。そうなると、昼はランチを探し、夜は1人で作って1人で食べる。これは相当に寂しい。東京には家族も友人もいて、勤務する大学があって、同僚も学生もいる。週に何度も宴会に誘われる。
そんなわけで、ラクな日本の生活に戻るのは実に嬉しいのだ。
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