これで最後か、ベネチア映画祭:その(2)
国際映画祭というものは膨大な数の映画を上映しているので、参加者は各自が目的に応じて見る作品を選ぶ。例えば買い付けの担当者は、日本でのヒットの可能性がありそうなものを見る。私のように文章を書く者は、コンペを中心に見る。
今年のコンペは20本。4本を見た時点で、一番面白かったのは、『セッション』のデイミアン・チャンゼル監督の「ラ・ラ・ランド」La La Land。女優志望のミア(エマ・ストーン)とジャズクラブを開きたいセバスチャン(ライアン・ゴズリング)の出会いと恋愛をミュージカル仕立てで描いたもの。
冬、春、夏、秋、そして再び冬が訪れたかと思うと5年後が描かれる。冒頭の高速道路で大勢の運転手達が車の上を踊るシーンは50年代のハリウッドのようだが、その後の展開や手法はむしろフランス映画の『シェルブールの雨傘』を思わせる。ミュージカルのシーンを長回しのカメラで追いかけ、時の流れをリアルに感じさせる。
特にラストの5年後のシーンでは、思わぬ仕掛けがあって、会場も大盛り上がり。オープニング作品だが、前半のハイライトだろう。
一番がっかりしたのは、ヴィム・ヴェンダースの3D「アランフェスの美しい日々」Les beaux jours d'Aranjuez。原題作家のペーター・ハントケの小説をもとにしたものらしいが、小説家がジューク・ボックスを聞きながら、タイプライターを打っていると、庭ではその小説が展開されるというもの。
小説と言っても、40前後の男が同じ年くらいの女性にこれまでの性体験をネチネチと聞いているだけ。この2人も小説家も思わせぶり過ぎて、10分もたつとうんざりしてきた。『リスボン物語』のように、スペインのアランフェスが出てくるかと思っていたら、最後までパリ郊外の庭。アランフェスは会話にしか出てこない。
3Dはあえて字幕や風景を時おり二重写しにするために使うだけ。その時は字幕が読めなくなるから、これまた思わせぶりとしかいいようがない。 そもそも私はハントケとヴェンダースが組む時の、ナルシスティックで「詩的」な世界が苦手だ。
去年のベネチアもそうだったが、あえてあらゆる種類の作品を並べて、「これも映画だよ」と見せている感じか。
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