これで最後か、ベネチア映画祭:その(11)
ベネチアについてはこれで最後にするが、いくつかの作品について簡単にまとめたい。「監督ばんざい」賞を取ったアミール・ナデリ監督の「山」は、イタリア人俳優を使ったイタリア映画。陽の当たらない山村で、山を砕く男を描く。
馬鹿にされても罵られてもひたすら岩に向かって鑿を打つ主人公は、まるで菊池寛の『恩讐の彼方に』の禅僧のよう。最後に山が崩れて巨大な夕日が出てきた時には、本当に奇跡が起こったと思った。『走る少年』も『カット』もそうだが、絶対にあきらめない人間像は、世界各地で映画を撮り続けるアミール・ナデリの生き方を思わせる。
オリゾンティ部門で脚本賞を取ったワン・ビン監督の「苦い銭」Bitter Money 苦銭は、雲南省から海岸沿いの都会に出てきた若者たちを描く。冒頭はバスと列車を乗り継いで2日間かけて移動する人々が写る。
工場とアパートが同じ場所にあり、いつもトラックが通って騒音が絶えない。そんななかで夫婦喧嘩をしたり、上司と衝突したり、機械の事故にあったりしながらも、何とか生き延びる。二段ベッドで一部屋に数人。食事は立ったまま麺をすすり、上半身裸でミシンを動かす。暗澹たる2時間半の傑作。コンペに入れるべきだろう。
コンペで国際批評家連盟賞を得たフランスのステファヌ・ブリゼ監督「女の一生」Une vieは、モーパッサンの小説を原作にした映画。主人公の結婚式など、重要なシーンを敢えて飛ばし、日常の積み重ねと回想を混ぜながら描く。あえて現代に近い言葉を使っているのもリアル。
固定ショットも手持ちカメラで撮り、人物たちの呼吸をも感じさせるようなリアリズムが波打つ。夫に裏切られ、子供に騙される女性の姿に涙してしまった。個人的には相当気に入った作品。
メル・ギブソン監督の「ハックソー・リッジ」Hacksaw Ridgeは「アウト・オブ・コンペ」で上映。沖縄戦をアメリカの医療兵の目から見た映画で、実話に基づく。藤田嗣治の戦争画を思わせるような、敵味方入り混じっての肉弾戦の迫力はすさまじいが、どこか嫌な感じが残る。それが日本への偏見のイメージのゆえか、あるいは悲惨極まりない戦場をスペクタクルにしていることへの不快感かはわからないが。
テレンス・マリック監督の「時の旅」Voyage of Timeは、BBCのネイチャーものドキュメンタリーに哲学を加えたようなもので、90分でも退屈した。そんなこんなで、ベネチアで32本も見た。いい年をしてこんなに見るものではない。映画祭はもう終わりにしようか。
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