これで最後か、ベネチア映画祭:その(10)
今年もまたコンペに日本映画が出なかった。出たのはオリゾンティ部門に石川慶監督の第1回長編『愚行録』と、アウト・オブ・コンペのアニメ『GANTZ:O』、クラシック・部門に『ざ・鬼太鼓座』と『七人の侍』。実は去年のベネチアから今年のベルリン、カンヌ、ベネチアと日本映画が1年以上コンペに出ていない。
その理由は後で考えるとして、見た映画について触れたい。『愚行録』は、妻夫木聡演じる週刊誌記者が殺人事件の1年後の取材を追いかける。彼の妹(満島ひかり)は幼児虐待で逮捕されていた。被害者を知る人々を取材するうちに、妹の姿が浮かびあがってくるというもの。
石川監督はポーランドの国立映画学校で学んだというが、次々に出てくる登場人物を滑らかなカメラワークでクールに見せてゆく演出は日本離れしている。大学の中の見えない階級や差別のベールが、サスペンスたっぷりに少しずつはがれてゆく構成もうまい。第一回作品とは思えないほどの力量だ。
ただし、海外で見せるには少し人物が多すぎるし、エピソードももっと整理した方がいいような気もしたがどうだろうか。製作はオフィス北野だが、ベネチアとは縁が深いのでやはり第一回作品でも選ばれやすいのだろうか。
『ざ・鬼太鼓座』(1981)は加藤泰監督の遺作だが、きちんと公開されず、上映の機会も少なかった。私も実は見ていなかったので、デジタルリマスター版というから見に行った。佐渡の鬼太鼓座という若者たちの音楽集団を追いかけたドキュメンタリーだが、これが予想以上の傑作だった。
「佐渡おけさ」とか「津軽じょんがら節」とかたくさんの音楽の演奏をきちんと見せてゆくが、舞台(というよりセット)とロケでの撮影を巧みに組み合わせ、リアルでありながら抽象的な雰囲気も出している。商店街の中での演奏が海辺のや室内の場面に華麗に切り替わる。
太鼓を叩く男を褌の下から固定カメラで見上げるような大胆なショットも多く、和服の女性の後に赤い椿のショットをつなげるなど、任侠映画の加藤泰美学も健在。
映画祭ディレクターのアルベルト・バルベラ氏は通常クラシック部門の上映には現れないが、会場の端の方に座っていたので驚いた。コンペの公式上映でも映画の始まる前にいなくなるのに、この上映では映画が始まってもしばらく見ていたから、やはり加藤泰が好きなのだろう。
日本映画がなぜコンペに出ないかは落ち着いてからいずれ書くが、「最近の海外に出る日本映画はどれも同じ」というイメージが定着したことが大きいのは間違いない。
| 固定リンク
「映画」カテゴリの記事
- 『東京オリンピック』から『オリンピア』へ(2026.10.15)
- 『襲名』に考える(2026.10.13)
- 『ディスクロージャー・デイ』のおもしろさと不可解さ(2026.10.07)
- 『ナギダイアリー』の新境地(2026.10.01)
- 『ビルマの竪琴』から『花と兵隊』へ(2026.09.27)


コメント