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2016年10月25日 (火)

『永い言い訳』への言い訳

西川美和監督の『永い言い訳』を劇場で見た。今年のカンヌでアスミックエースの方がブースにポスターを貼っていたのを見てから、見たいと思っていた。この監督の映画は、『ゆれる』以降はすべて見ているかもしれない。

まずおもしろいし、その演出の巧みさに驚くが、どこか物足りない。彼女の映画にはいつもそんな思いがあったけれど、今回は特に物足りなさが大きい気がした。

この映画は基本的に本木雅弘演じる幸男の視点から描かれる。人気作家でテレビにも出る有名人。彼の髪を自宅で妻の夏子(深津絵里)が切るシーンから始まる。そしてスキー事故で妻が亡くなり、その後を右往左往しながら生きてゆく幸男が描かれる。

私はただの大学教師だが、年齢的にも環境的にも私の生活と少し似ている。だから最初は「そうそう」と頷きながら見始めた。ところがだんだん「これはないよ」となっていった。

幸男という存在がリアルに見えない。まず、こんな作家はいないと思う。いまどき、テレビのクイズ番組に出る流行作家がいるだろうか。テレビを見ていないからわからないけど。

黒木華演じる編集者の愛人は、実は見ていて編集者とはわからなかった。池松壮亮のマネージャーも同様で、まさかマネージャーとは、パンフを読むまで思いもしなかった。

もちろん細部は繊細でユーモアに満ちている。冒頭の妻との会話も一つ一つがよくできている。この映画がリアルになるのは、中盤で子供が出てきてから。同じ事故で亡くなった妻の親友の夫や子供たちが、まさに天衣無縫に活躍する。下の娘と本木が自転車に乗るシーンなど秀逸だし、長男が竹原ピストル演じる父に反抗するシーンも心に残る。

よくなってきたと思ったら、最後は妙なハッピーエンドに落ち着く。また、「これはありえない」と思う。こんなに頭の悪い作家に、この結果はない。

期待して見た西川監督の新作だけに、言い訳のように不満を書いた。もちろん、心に残った1本であることは間違いないけれど。

ちなみにパンフは字が小さすぎて読めない。プロダクション・ノートは、そのうえ緑の文字で刷ってあって、ありえないと思った。

そういえば、この映画はカンヌにもベネチアにもロカルノにも出ていない。このドラマ性の弱さでは、当たり前だろう。

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