生暖かい日本で:その(5)
日本に帰ってきて一番良かったと思うのは、実は朝日新聞の朝刊を広げる時。朝起きて、「ルモンド」より一回り大きくページも多い新聞を広げながらコーヒーを飲む快楽は、まさに何物にも代えがたい。
そもそもアパートまで届ける宅配制度がある。パリに着いてすぐは、近くの売店で「ルモンド」を買ってカフェに座ってカフェオレを飲みながら読んだりもしたが、これはそう簡単ではない。
まず外に出るのに着替える。8時前に開いている売店は、少し歩く。一番の問題は近くの2つのカフェは中国系の経営で、私が日本人のせいか極めて感じが悪かった。新聞を少し読んで30分強で帰ってくると、ずいぶん疲れた。
それよりなにより、「ルモンド」のフランス語は相当難しい。映画の記事ならわかるが、政治経済となるとそもそもの文脈を知らないので、ちっともわからない。たぶんこの半年は労働法改正が最大のテーマだったが、何度読んでも何がポイントなのか最後までわからなかった。
だから「ルモンド」を買うのは映画欄の載る水曜のみにして、あとは3ヵ月1ユーロというキャンペーンでネット会員になった。朝日新聞もネット会員なので、こちらをPDFの形で毎朝読むことを義務づけた。ネットのトップページだけでは、見逃すニュースが多すぎるから。
義務にしないと、すぐ忘れてしまう。それほどネットで読む朝日新聞は楽しくなかった。新聞をめくりながら、気になる見出しや広告に目をとめて数秒だけ読むようなことは、ネットではできない。あくまで見出しを見ておもしろそうだと拡大して読む。
同じ10分ほど費やしても、ネットでは全く楽しくないのはなぜだろうか。印刷された大きな紙を触ること自体が、私の中で快感としてインプットされているのかもしれない。20年近くも新聞社に勤めたことも大きいかも。
私は学生に新聞を購読するように勧めるが、まず誰も従わない。「新聞はかさばります」という。新聞も本も情報としてとらえる彼らは、印刷物を触る快楽を知らないのかも。
次に日本で嬉しいのは何だろうか。いつでも何でも安く買えるコンビニか、1000円以内のおいしいランチか、あるいは、身分証明書なしで外出できる気安さか。
それにしても暑い。少し涼しくなった今でも、パリの夏の天気に近い。汗がよく吹き出すのは、更年期だからかもしれないが。
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