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2016年10月24日 (月)

無声映画を語る人々

フィルムセンターに「無声映画遺産とアーカイブ」と題する講演会を聞きに行った。ユネスコの「世界視聴覚遺産の日」記念イベントと銘打ってある。大学で映画史を教えるからには、たまにはこういう真面目な講演を聞こうと思い立った。

講演したのは、早大で教える小松弘さんと、フィルムセンター主幹の岡島尚志さんで、どちらも私より5歳ほど上の「畏友」と呼ぶにふさわしい人たちだ。

たぶん、映画の話をしていて、これほど自分が無知であると感じる人々は日本ではほかにいない。特に古い映画に関しては、会うたびに泉が湧くように出てくる未知のことがらに驚くばかり。考えてみたら、かつてはよく会っていたが最近は話を聞いていない。

小松さんは、「無声映画の美しさ」という演題で、誰も知らないサイレント映画が見つかった時に、それが何かを探し当てる探偵のような作業の面白さについて語った。まず見せてくれた断片映像は、ルネ・クレステが出ていることから、ルイ・フイヤード監督の『ジュデックス』(1917)の続編か何かと思ったという。

もちろん、一瞬でルネ・クレステという俳優を見分けられる人は、小松さん以外には世界にも多くはないだろう。そして奥の深いセットがあることから、ゴーモン社の作品であることもわかったという。はあ。それから最近出たレオンス・ペレについての本にあった写真から、彼の監督作品だとわかり、Mysteres de l'ombre=「影の神秘」(1916)ではないかと特定できたとのこと。

フイヤードならば「ファントマ」とかで有名なので、私でも知っているが、レオンス・ペレという監督の名前を知っている人が観客の中にいただろうか。それを小松さんは、原稿も読まずパワポもなしで舞台に直立し、すべてをいかにも楽しそうにニコニコしながら話した。

岡島さんは「アイリス・バリーとD・W・グリフィス―MoMAフィルムライブラリーの始まり」という題で、主にアイリス・バリーというMoMA=ニューヨーク近代美術館の映画部門の創設者について語った。彼は最初に、シネマテーク・フランセーズの創立者、アンリ・ラングロワに比べて、バリーがいかに知られていないかを力説した。

彼女はイギリスの農家の出身で、エズラ・パウンドに見出されて映画評論家として活躍し、結婚して2人の子供を持つ。離婚後、1929年にニューヨークに渡る。35年にMoMAで映画部門を15歳年下の夫と共に作り、38年に国際フィルムアーカイブ連盟をラングロワらと設立。そして49年にMoMAを去る。

主に最近出たロバート・シットンの伝記によるらしいが、パワポに出る引用文も、写真のクレジットもすべて英語のまま。これまた、誰がついて行けるのかという専門ぶり。回顧上映を企画し、本を出してグリフィスを正当に評価したのはバリーだが、グリフィスが彼女を嫌っていたことが実際の手紙でわかり、実に興味深かった。

最後は映画保存の困難さと重要さを訴えておしまい。私には一生追いつけない2人だと、改めて実感した。

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