『ハドソン川の奇跡』にうなる
クリント・イーストウッド監督の新作を必ず封切り時に見るようになったのは、いつ頃からだろうか。たぶん、2000年の『スペースカウボーイ』あたりからのような気がする。この頃からは「仕事の鬼」でなくなり、映画館にハリウッド映画を見に行くようになった。
もちろん彼の映画は毎回はずれがない。最近だと、『ヒア アフター』のような来世ものや『ジャージー・ボーイズ』のような音楽映画でさえも。しかし、今回は見始めて少し心配した。
冒頭は、機長の管制官との交信から始まる。そして飛行機が墜落するという夢を見るトム・ハンクス演じる機長が写る。始まった瞬間から「事故後」の話だとわかり、そのうえ彼が一方でマスコミに英雄と持ち上げられながらも、国家運輸安全委員会から厳しく追及される。
映画は、その追求を通じて、ハドソン川への水上着陸という事件の細部を掘り起こしてゆく。つまり、基本は機長の回想による再現だ。心配する妻との電話のシーンも挟み込まれるが、会話に出てくる娘2人は写らずありがちな「家族の物語」からは遠ざかる。
さらに混乱する乗客もあまり見せない。彼らが恐怖に慄き、我先に逃げようとするさまを見せる「パニック映画」になりがちだが、そこへも向かわない。
繰り返し見せるのは、機長の判断の瞬間であり、それをサポートする副機長や管制官や助けに行くフェリーやヘリコプターの動きであり、救出される乗客の姿だ。そして安全委員会の公聴会が終わり、静かな感動が訪れる。
わずか94分。無駄をそぎ落とした演出は限りなく透明で、事実だけが並んでいるようだ。その純度の高さにうなった。
個人的にはこの半年で8往復、計16回も飛行機に乗ったので、見ていて怖かった。出発や着陸の瞬間の何とも嫌な感じが蘇った。
さて実際の事件は2009年1月15日に起きているが、実は私はよく覚えていない。なぜかと考えたら、ちょうどその頃自分が大学に採用されるかどうかという時期だったことを思い出した。3月末に退社予定だと部長に告げたのが1月末だったから、決まるかどうかという瀬戸際だった。アメリカの飛行機事故なんてどうでもよかったのだろう。
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