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2016年11月14日 (月)

ガレルは変わらない

フィリップ・ガレルの新作を見て、かつて私のとってのパリはこんなイメージだったと思い出した。来年1月21日に公開される『パリ、恋人たちの影』のことである。冒頭に、白黒の画面に無表情の青年が突っ立っている。金はなさそう。手に持ったパンをかじる。

40近くのピエールはドキュメンタリーを作っているが、いつできるともわからない。妻のマノンは、そんな夫を支える。家賃が払えなくても、母親にどんなに心配されても。

ピエールには若い恋人エリザベットができる。彼女はピエールの後をこっそりつけているうちに、マノンの不倫現場に立ち会う。それをピエールに言うと、ピエールはマノンに不満をぶちまける。

女たちは好きな男への愛に生き、男は悪意なく二股をかける。映画はその過酷な現実を、35ミリのシャープな映像で伝える。とりわけ、化粧もしない女たちの表情が痛々しく、生々しい。こんなに純粋に愛に生きることが可能なのか。

まぎれもない現代の映画だが、ネットもコンピューターも登場しない。スマホなんて誰も持っていない。出てくる風景は昔ながらのパリ。高層ビルの並ぶ新しい地区やショッピングセンターはどこにも写らない。

何より、主人公は映画監督志望。彼がエリザベットに出会うのは郊外の映画保存庫。重いフィルム巻をいくつも運ぶエリザベットをピエールが助けることから始まるのだから、すべてが映画づけ。

そして全編をナレーションが覆う。まるでトリュフォーの映画のようだが、この暗澹たる雰囲気はジャン・ユスターシュやシャンタル・アケルマンなどポスト・ヌーヴェルヴァーグ特有のもの。あの70年代前半の澱んだ時代から、ガレルは変わらない。

映画は73分。今のパリではありえない話という人はフランス人にもいるだろう。確かに、最近のフランス映画には出てこない。しかし、こんな人々がひっそりとあちこちに住んでいることを私は知っている。人間の根源を、映画の原点を忘れないために、こんな映画を作る監督がいるのは本当に貴重だと思うし、日本で公開するとは何と素晴らしいことだろう。

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