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2016年11月16日 (水)

トッド・ソロンズ描くアメリカのリアル

実はつい最近まで、あろうことかトッド・ソロンズとトッド・ヘインズをごっちゃにしていた。どちらも才能溢れるアメリカのアート系監督で性の問題を追及しているうえ、私と同世代。ところがヘインズの方はロマンチックな物語構築へ向かい(『キャロル』!)、ソロンズは病んだアメリカをブラックユーモアで見せる。

ソロンズは『終わらない物語 アビバの場合』(2004)が相当にヘンだったが、「Life During Wartime」(2009、未公開、ベネチアで見た)とどんどんヤバイ方向に進んできた。児童虐待や近親相姦などがなにげなく出てくるから。

『ダークホース』(2011)は一見地味だが、それゆえにミア・ファローとクリストファー・ウォーケンの奇妙なカップルから病んだアメリカが浮かび上がった。そして今度の『トッド・ソロンズの子犬物語』は、病んだ物語さえも解体させているかのようだ。

4つの物語が、ぶつ切りにされたように並んでいる。共通するのは茶色の同じダックスフンドが出てくること。最初は小児がんの少年が飼う。ブルジョアの両親(母はジュリー・デルピー!)はそれが失敗だったと気づくが。

獣医の助手は、ダックスフンドと出会って人生が変わる。彼女は旧友の男に出会って、犬を連れて一緒に旅行に出かける。そこで出会う男の兄夫妻。

大学の映画学科で教える中年の教授は、卒業生に馬鹿にされ、同僚に退職を勧められるが、ダックスフンドだけが頼り。

偏屈な老婆はダックスフンドを飼っている。そこには孫娘がヘンな恋人と金をせびりにやってくる。

どの場面にも、普通は見たくないような困った人々が次々に出てくる。笑っていいのかどうかもわからない。それでも時々飛び切りに美しいシーンが出てきて、幸せな気持ちになる。

少年が犬とベッドから羽毛を取り出して踊るシーン、老婆が少女時代の自分に何人も出会うシーンなど、不思議な抒情が漂う。明らかに映画の才能に恵まれた監督が、わざとみんなが嫌がるような映像を見せている。しかし、そこに苦いユーモアと怪しげな美が生まれる。

ラストのシーンに至っては、開いた口が塞がらなかった。題名の『トッド・ソロンズの子犬物語』につられて犬好きが見に行ったら、どうなるだろうか。しかし、実のところアメリカのリアルな日常は、こんなものかもしれない。トランプ新大統領が見たら、激怒しそう。みんなには勧めにくいが、映画好きにはウケるはず。1月14日公開。

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