36歳のゴダール
アンヌ・ヴィアゼムスキーの『彼女のひたむきな12カ月』を読んだ。ヴィアゼムスキーは、『中国女』(1967)を始めとして60年代後半のジャン=リュック・ゴダールの映画に出演し、生活をともにしていた女性だが、今は小説家として知られている。
彼女が17歳の時にロベール・ブレッソンの『バルタザールどこへ行く』に出た時の話を小説にした『少女』については既にここに書いたし、その後来日した時の講演会についても触れた気がする。
ブレッソンの天才ぶりもおもしろかったが、やはりあのゴダールについてはもっと知りたかった。『少女』の次にゴダールとの出会いや恋愛の1年間を書いたこの本が数年前に出版されたので、翻訳を心待ちにしていた。
予想通り、抜群におもしろかった。高校を出たばかりの19歳のブルジョアの娘が、36歳の天才監督に出会う様子が、まるで昨日のことのように詳細に書かれている。その鮮烈な印象は、とても40年以上後に書いたものとは思えない。
『中国女』に関しては日記があるようだが、そのほかは当時を回想しながら、その雰囲気を自由に書いていったのだろう。それにしても実に生々しい。
彼らは『バルタザールどこに行く』の撮影の時に既に2度出会っていた。ゴダールは一目ぼれしたようだが、アンヌは『気狂いピエロ』と『男性・女性』を見て、気に入ったと「カイエ・デュ・シネマ」誌気付で手紙を送った。それを受け取ったゴダールは、南仏のバカンス先に夜10時に電話を寄こし、翌日に会いにくる。
その日は帰ったが、彼は3日間、毎日電報を送り、また会いに来る。そしてさらに2日後にまたやってきて、2人は結ばれる。「君は僕の恋人じゃない。それ以上だ。僕の妻だ」
それから後はゴダールは毎日のようにパリのアンヌに手紙や花や本を送り、ある時は車をプレゼントする。アンヌは運転もできないのに。ゴダールはあらゆる男性に嫉妬する。トリュフォーを自分で紹介しておいて、「まさかトリュフォーのことを好きになったりしないだろうね」
トリュフォーの言葉もいい。「ジャン=リュックの人生に関わってくれてありがとう。ここ最近見たことがないくらい、今までで一番と言っていいほど、彼は幸せそうだよ」「本当だよ、アンヌと一緒にいる時の彼は、いいやつと言っても差し支えなさそうだ」
この後、母との確執や『中国女』の準備やマスコミからの逃走の1年間が描かれるが、今日はここまで。それにしても、文末の山内マリコの解説文は稚拙だ。
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