斬新で際どい『汚れたミルク』
3月4日公開のダニス・タノヴッチ監督『汚れたミルク』を見た。2014年の映画だが、ようやくの公開。タノヴィッチという監督は、アカデミー賞外国語映画賞を取った『ノー・マンズ・ランド』の時から、斬新で際どい映画を作ってきた。
言い方を変えると、あざといが、面白い。今回の『汚れたミルク あるサラリーマンの告発』もまさにそうだった。わずか90分足らずなのに、物語は二転三転し、見る側は面食らう。
冒頭に、ロンドンの映画監督やプロデューサーとテレビ電話で話すアヤンが写る。アヤンは1994年にパキスタンで多国籍企業に勤め始めた経緯を話し始める。彼はそこで医師向けの粉ミルクの営業を命じられるが、賄賂をうまく使ってすぐに一番の成績となる。
ある時アヤンは死んでゆく未熟児たちを見せられて、自分の売る粉ミルクを汚れた水で飲んだことが原因と知る。会社を辞めて告発しようとするが、多国籍企業はあらゆる手段を使ってそれを阻む。
そんな社会派の映画だが、興味深いのは、同時進行で映画が作られてゆくこと。最初は「ネスレ」という企業名が一度だけ出るが、テレビ電話の向こうの弁護士がそれはまずいと言うと、その後は映画の中ですべて「ラスタ社」となる。
人権団体の女性マギーがアヤンを応援して、ドイツのテレビ局にこのスキャンダルを取り上げた特別番組を作らせ、彼らはドイツへ向かう。しかしラスタ社の鋭い反撃で、放映は危うくなる。英雄としてパキスタンに戻るアヤンの計画は頓挫する。マギーはそこで映画を作ろうと考え、冒頭に戻る。
もちろんこれは事実をもとにした映画で、最後にはアヤンの現在も語られる。見ている時は、アヤンはどうなるのかと気が気ではないが、見終わってこれが現在進行形で映画を作る映画だとわかり、何だかキツネにつままれたような気持ちにもなった。
この監督はボスニアヘルツェゴビナの出身だが、『鉄くず拾いの物語』でロマの一家を描いたと思ったら、この映画ではパキスタンの多国籍企業の隠れた事件を暴く。この問題は現在も進行形のようだが、世界のあらゆる悪に切り込んでいる感じがする。
もう1本のタノヴィッチの新作『サラエヴォの銃声』との連続上映のようだが、こちらも見たい。こちらは85分で、この監督の性急さは現代では稀なこの短かさに現れているのかもしれない。
| 固定リンク
「映画」カテゴリの記事
- 『ディスクロージャー・デイ』のおもしろさと不可解さ(2026.10.07)
- 『ナギダイアリー』の新境地(2026.10.01)
- 『ビルマの竪琴』から『花と兵隊』へ(2026.09.27)
- 1年ぶりの海外で考えたこと:その(5)飛行機の映画(2026.10.03)


コメント