『サラエヴォの銃声』の摩訶不思議
ダニス・タノヴィッチ監督の映画をまた見た。3月25日公開の『サラエヴォの銃声』だが、この監督らしく85分という上映時間がいい。最近では2時間を超す映画が当たり前になってしまったが。
85分を見終わると、一瞬キツネにつままれたような気分になった。それから時間がたつと、だんだんありがたみが出てくる摩訶不思議な映画だった。
舞台は、第二次世界大戦のきっかけになったサラエヴォ事件の100周年を祝う記念式典直前の「ホテル・ヨーロッパ」。そのホテルは実は資金繰りに苦しんでおり、支配人は従業員のストを恐れている。
支配人の片腕として働く美人社員はコックに言い寄られ、同じ職場で働く母がストの代表になってしまって悩む。ホテルにはフランスの著名な俳優が記念行事の公演のために宿泊しており、支配人は部下に命じて徹底的にマークさせる。
屋上ではこの記念のために女性ジャーナリストが何人かの著名人にインタビューしている。ところが100年前にサラエヴォ事件の発砲をした子孫で同じ名前の青年へのインタビューは、言い争いになってしまう。そんな混乱の中で、一つの「発砲」が偶然に起こる。まるで100年前のように。
上映前に宣伝の方が「グランド・ホテル形式」と説明していた。1931年の『グランド・ホテル』からきたもので、多くの人の日常を並行的に描きながら、それが交わりドラマが起きるさまを人生の縮図のように楽しむものだ。
この映画はまさにホテルを舞台にしているし、7、8人の運命が交差するからそう呼べるだろう。違うのは、『グランド・ホテル』はグレタ・ガルボを始めとしてジョン・バリモア、ジョーン・クロフォードなどの大スターが揃っていること。MGMという当時一番勢いのよかったメジャーによる、スターの顔見世のための形式なのだ。
こちらは、フランスの舞台俳優、ジャック・ウェバー(公演をする自分自身を演じる)を除くと有名な俳優がいない。もっと違うのは、『グランド・ホテル』が宿泊客中心であるのに比べて、こちらは主として従業員たちの表に出ない裏のドラマが見せられる。
だからわかりにくいし、味わいは極めて苦い。もともとフランスの哲学者、ベルナール・アンリ=レヴィの戯曲(ジャック・ウェバーが演じる)をもとに発想したものらしいが、100年の歴史もあいまって、幾重にも折り重なった複雑なドラマが見終わるとじわじわと蘇ってくる。
| 固定リンク
「映画」カテゴリの記事
- 『ディスクロージャー・デイ』のおもしろさと不可解さ(2026.10.07)
- 『ナギダイアリー』の新境地(2026.10.01)
- 『ビルマの竪琴』から『花と兵隊』へ(2026.09.27)
- 1年ぶりの海外で考えたこと:その(5)飛行機の映画(2026.10.03)


コメント