いまさら押井守:その(4)
『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』(1995)と『立喰師列伝』(2006)を見た。どちらもかなり期待していたが、正直に言うとがっかりした。今回は、これで押井守はおしまい。
『攻殻機動隊』は、押井守の代表作でジェイムス・キャメロンが絶賛したとか『マトリックス』がその影響で生まれたとか聞くので、どんなものかと思った。もうすぐハリウッド実写版もあるし。
ところが、これが今見るとさほど新しくない。時代に追い越されたというか。ネット世界と人造人間が発達し、それが繋がって人類を脅かす。舞台は中国語だらけでたぶん香港だが、これは続編の『イノセンス』と同じ。人造人間の草薙素子は公安9課でバートとハッカーを捜査する。そこにもう1人の人造人間の美女が現れる。
すべてがネットに繫がっているのはいいが、人造人間が今一つおもしろくない。胸の大きな美女が2人も出てきてその裸が何度も出てくるが、肌をめくると中は機械で作られているというのがキモなのだろうか。
日曜の午後のせいもあってフィルムセンターは始まる15分くらい前に満員となり、終わると拍手が鳴った。その前の回は押井氏のトークもあったので「信者」たちが詰めかけて、そのまま次の回も見たのだろう。
私も実はトークに行こうと思ったが、『立喰師列伝』を見たらその前後の中短編を見る気も押井氏の話も聞く気が失せた。チラシには「立喰師」たちの活動を語るフェイクの戦後日本史」と書かれていたので、一番期待していたのだが。
戦後の闇市の蕎麦屋から、牛丼、ハンバーガー、フランクフルト、カレーと時代を追って変遷し、そのたびにヘンな「立喰師」が出てくる。「ケツネコロッケのお銀」とか「牛丼の牛五郎」とか。それをナレーションでえんえんと説明する。
60年安保とか東京オリンピックとか全共闘とかダッカ事件とか出てくる。あるいは「自己批判」とか「総括」とか昔の言葉が出てくる。これらを批判するわけでも肯定するわけでもなく、「遅れてきた青年」の押井はとにかく意味のない言葉を連ねる。
最近の押井氏の発言はだいたいヘンだが、それがこの映画に出ている感じ。今回押井映画を何本も見て、個人的には『アヴァロン』(2001)『イノセンス』(2004)『スカイクロラ』(2010)が良かった。それでも「セカイ系」には違和感がある。
どうでもいいが、19時から『立喰師列伝』を見る前に私は吉野家の牛丼を食べた。それが映画で出てきたので、無性におかしかった。自分も「遅れてきた青年」かもしれない。
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