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2017年1月10日 (火)

「アエラ」の邦画特集が迷走

現在発売中の1つ前の正月合併号の「アエラ」の邦画特集が、迷走して物議を醸しているようだ。記事の一部がライブドア・ニュースなどで流れたこともあって、フェイスブックにも反発の声があった。表紙のコピーは「5つの決断で日本映画は頂点へ」

私はこれを見た時、「こうしたら日本映画は頂点に向かいますよ」という提案型のものかと勘違いした。ところが中をめくると、「5つの条件が絶頂に導いた」という見出し。さらにリードに「いま、日本映画の完全復活を否定する人はいないだろう。どん底と言われた30年をどう抜け出したのか」

私は「日本映画の完全復活」を口にする日本の映画業界人に一度も会ったことがない。もちろん私の知り合いはインディペンデント系が多いにしても、「出資者が見つからない」「劇場にすぐに切られる」(=上映期間を短くされる)「いい映画評が出ても動員に結びつかない」「現場は3Kで休めない」といった声ばかり聞こえる。

そのうえ、映画史的に見ても今の日本映画が「絶頂」とはとても思えない。例えば日本映画の観客数が11億人を超して史上最高だった1958年は、キネ旬の1位が木下恵介『楢山節考』、次が黒澤明『隠し砦の三悪人』、小津安二郎『彼岸花』、市川崑『炎上』と続く。増村保造の傑作『巨人と玩具』がようやく10位。

これらの映画に比べたら、「アエラ」絶賛の『シン・ゴジラ』や『君の名は。』は、しょせん子供だましだろう。そのうえ、その頃のベストテンの映画はすべてが邦画メジャーの単独製作で、どれもそれなりに当たっている。

どうも「アエラ」は質は問題にせず、興行収入だけを考えているらしい。去年は興行収入が2300億円前後で過去最高という。しかし入場者数では1億8千万人くらい。1958年の6分の1以下なので、数字的に見ても「頂点」とはとても言えないが。

そもそも入場者数は1972年くらいから、約45年間、1億5千万人から2億人の間を行き来している。半世紀近い万年停滞期なのに、「アエラ」の「どん底と言われた30年」という根拠もわからない。1980年代半ばからどん底が始まったとは、聞いたことがない。

去年の邦画の賞レースを見ても、『永い言い訳』『淵に立つ』『クリーピー』『団地』『64』と、とても当たったと思えない作品に、『この世界の片隅に』『怒り』などようやく興収10億円を越した作品が並ぶ。『シン・ゴジラ』だけが例外。去年に至っては、『ハッピーアワー』とか『野火』とか『恋人たち』とか自主映画ばかり。

「アエラ」の「5つの条件」を細かく批判しようと思ったが、今日はここまで。要はたまたま当たった人たちの自慢話ばかりで、全く面白くない。石飛記者の俳優分布図だけが読む価値があった。

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コメント

「園子温という生きもの」のDVD映像特典に、園監督と大島新監督の「日本映画を語る」というものが付いており見たのですが、やはり黒澤小津が名を連ねていた時代(1958年)と今では、作家に個性が無く、メジャーの作品でも、監督名を伏せて試写して見たら誰の作品か断定できないものが多くなりすぎている、と語っていました。
あとは、日本の汚い部分を見せず(人情的なものしか見せず)、日本映画界にあぐらをかいて居座っている日本代表監督が多すぎると。。。それこそ大島若松を失ったテン年代では..

投稿: さかた | 2017年1月14日 (土) 01時20分

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