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2017年1月21日 (土)

『海賊と呼ばれた男』の何がいけないか

ようやく『海賊と呼ばれた男』を劇場で見た。『永遠の0』は映画としてはそれなりによくできていたが、戦争肯定の展開にどこか無理があると思った。今回も同じ百田尚樹の原作なので、見るのを躊躇していた。

終わり間際に見ようと思ったのは、この映画が出光佐三をモデルにしていると知ったから。出光石油を一代で作った出光佐三は福岡出身で独特の経営者として有名で、好きな出光美術館もあるので前から関心があった。

結果は予想通りというか、何度か泣いた。一番好きだったのは、出光の社員が戦争から引き揚げて、焼け野原の銀座に社屋がまだ立っているのを見つけた瞬間だろうか。焼け跡の銀座をこれほどリアルに描いた映画は、これまでなかったのではないか。そのうえ、冒頭には東京大空襲の瞬間を米軍飛行機の視点から見せるのだから。

東銀座の晴海通りと昭和通りの角、歌舞伎座の横には今も出光のビルがある。今は白だが、かつてはレンガ色で威張っている感じなのに面積は少なくて無理しているように見えた記憶がある。その形は実は戦前からほとんど変わっていないのだとこの映画を見て思った。

この映画によれば、戦前は社長も社員もそこで寝起きしていたというから、まさに家族経営。映画は負けず嫌いのワンマン社長の戦いの人生を、27歳から95歳まで描く。

まず、27歳の時に関門海峡の上で漁船用の軽油を安く売り、同業者と喧嘩。満鉄に車軸油を遮二無二売り込む。戦後はラジオの修理事業や旧海軍の石油備蓄タンクの処理をやりながら、石油参入の道を開く。そして米メジャーとの提携を断って、イランと直接契約を結ぶ。

どの場面もきちんと作り込んであるが、やはり岡田准一演じる社長を絶えずカッコいいヒーローにして描くから、ちょっと無理がある。つまりこの会社の人間はずべて正しく、それ以外はすべて敵。この社長のように破天荒に頑張った日本人がいたのを忘れるな、という原作者の説教を聞いている気にもなる。

それでも80年近くを演じる岡田を始めとして、社員の小林薫、吉岡秀則、染谷将太、ピエール瀧、堤真一らが実に存在感たっぷりに描かれている。出番は多くない妻役の綾瀬はるかを始めとして、光石研、黒木華、近藤正臣、国村隼なども実にくっきりと見える。

そういえば、社長の執務室に仙厓の絵が飾ってあった。パンフには触れていないが、仙厓は出光美術館が多くを所蔵している。こんな細かな考証もできている。

要は、才能のある山崎貴監督は、こんな原作ではない映画を作って欲しいと思った。彼の場合はどうしても特撮が前面に出る映画が多いが、もっと普通の映画を撮ったらどうだろうか。

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