『モン・ロア』の愛憎劇を楽しむ
フィルムセンターでデジタル時代の映画保存についての討議を一日中聞いていたら、疲労困憊した。そこで見たのが、ちょうど近くで夕方に試写をやっていた3月25日公開のフランス映画『モン・ロア 愛を巡るそれぞれの理由』。
フランス映画とイタリア映画は、私にとっては言葉がわかることもあって、疲れた時には心地よい。この映画は久しぶりに見たフランスのコテコテ恋愛ドラマだったので、まさに「おふらんす」に浸った。
一昨年のカンヌで主演のエマニュエル・ベルコが女優賞を取った作品で、監督はマイウェン。ベルコの相手役はヴァンサン・カッセルで、その弟がルイ・ガレルで彼の恋人がイジルド・ル・ベスコ。
エマニュエル・ベルコは監督でもあるが、彼女が監督した短編『ヴァカンス』と中編『少女』を「アニエス・ベーは映画が大好き パート2」という映画祭で2000年に上映したことがある。『少女』はイジルド・ル・ベスコが主演で彼女と監督が日本に来る予定だった(実際は来なかった)ので、監督のインタビューをカタログに翻訳した記憶がある。
そんなこともあって、彼女の主演作には興味があった。イジルド・ル・ベスコも出ているし、監督はその姉のマイウェンだし。
前置きが長くなったが、映画は50歳前後の中年男女の10年にわたる愛憎関係を描く。好きと言ったり、嫌いと言ったり、セックスをしたかと思うと、怒って追い出したり。それが2時間6分。1時間くらいたって長いと思い始めたが、そのあたりから何度も盛り上がる。
こんな情緒不安定な恋愛ものは、まさにフランス映画。そのうえ、何と言っても、エマニュエル・ベルコがドキュメンタリーのように実にリアルな反応を見せる。それも彼女自身の中年の少し太った体をあえて見せながら。
派手好きで浮気を繰り返す夫役のヴァンサン・カッセルも地で演技している感じだし、彼を評価しない弟役のルイ・ガレルも何ともかわいい。あれやこれやで上ったり下りたりする感情の荒波を最後まで楽しんで見てしまった。
こんなコテコテ、ドロドロの愛憎劇はフランスしか作れない。恋愛至上主義のフランスは、やはり大変な国だと改めて思った。日本人でよかった。
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