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2017年2月 5日 (日)

『なりゆきな魂、』の快い難解さ

「シュール」とか「難解」と言われる映画の多くは、大人になってから見るとつまらない。ひとりよがりで底の浅い妄想を見るくらいなら、普通のドラマを見た方が楽しい。しかし公開中の瀬々敬久監督の『なりゆきな魂、』は、わけわからないが抜群におもしろかった。

一言で言うと、『ヘブンズ ストーリー』のタガがはずれたバージョン。たくさんの人々が出てきて、その奥には暴力とエロスと生と死が渦巻くが、話は繋がらずにいきなり終わってしまう。それでも濃い官能と情感があちこちに溢れだす。すぐにも忘れそうなので、ストーリー(らしきもの)を書き留めたい。

最初に戦後間もないバラックでアメリカ兵を相手に暴れる男、この男が老人になったのか、次に老人2人が出てくる。足立正生(!)は「仙ちゃん」で柄本明は「おとっちゃん」で、何もない沼地で2人は若い女性有希(山田真歩)に乱暴をする男を見て、女を助けようとして一緒に男を殺してしまう。3人が男の死体を運ぶ車の中では、バス事故のニュースが流れる。

バス事故の遺族たちが集まる会。10人ほどが泣いたり怒ったりしながら話す。唐突なシーンなのに、それぞれの人生が忽然と浮かび上がる。そのうちの1人の女性はバレリーナ。もう1人、昔バレエを学んでいた女性がいて、2人で踊る。彼女はバス会社の男と寝てしまう。

男を殺した有希は、野菜販売所で働く。そこにやってくる若い男。彼は満開の桜の下でカメラを持つ中年男の忠男(佐野史郎)が別の若い女・あつ子と話しているのを見て割り込む。若い男はあつ子に言い寄り、なぜかあつ子は胸をはだけ、血みどろの喧嘩になる。

あつ子は言う。「もう誰も止められないのよ。破滅に向かっているのだから。だから毎日どんちゃん騒ぎの極楽とんぼ」。忠男は妻と上半身裸で、ひたすらご馳走を食べる。餃子や寿司など山のように食べ物が並ぶ。そして援助交際をする女学生や、オレオレ詐欺をして大量の1万円札に埋もれる男。そんな異常なシーンが走馬灯のように流れる。

仙ちゃんは死に、「おとっちゃん」が大きな家に線香をあげに行く。戻ってトタン屋根のバラックの家に帰る。

たぶんこんな内容だったと思う。つげ義春の弟のつげ忠男のいくつかの漫画が原作だが、わけがわからないが、心が締め付けられる瀬々ワールドが全開だ。男女の愛、親子の愛、友情、孤独、踊り、音楽、殺し、セックスといったもののエッセンスが、断片的だが強烈に描かれているから。

20人以上のひとりひとりがどんな人生なのか、気になってしかたがない。それぞれのシーンに選ばれた土地の雰囲気も味わい深い。快い難解さとはこのこと。

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