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2017年2月24日 (金)

関西で見る『夫婦善哉』

毎年、この時期になると関西の私大の大学院で集中講義をしている。ホテルに泊まり、毎日阪急電車で通う。チョコレート色の車両は東京の私電より幅が広く、ゆったりとした感じがする。抹茶色の座席シートも心地よい。

電車が近づくと、ホームで「パパン、パパパパ、パパパパ」と軽快な音が鳴り、みんながゆっくり乗り込む。乗る時間が通勤帯より遅いこともあるが、東京のように席をめがけて走る者はいない。

その緩やかなテンポは大学内も変わらない。学生も先生も校内をゆっくり歩く。学生と昼食を一緒に取っても、私が一番先に食べてしまう(これは東京でもそうか)。とにかくここでは万事がゆったり。

そんななかで、豊田四郎監督の『夫婦善哉』(1955)のDVDを学生と一緒に見た。私はこの映画を関西人がどう思うか興味があった。私にとっては、森繫久彌演じる船場の放蕩息子・柳吉と淡島千景の芸者・蝶子のコンビは、「大阪」というイメージそのものだった。

昭和7年頃の大阪。船場の商家を勘当になった柳吉は、万事いい加減だがプライドが高い。しかし人情に溢れていて、別れた娘を愛おしむ。蝶子は日陰の身であることを受け入れつつも、好きな男を何とか立ち直させようと思い、遮二無二働く。

いつの間にか柳吉の病気の妻は死に、蝶子の母は死に、柳吉を勘当した父親も他界する。そうしたドラマをあまり見せずに、映画は2人の男女の「しょうもない」行きつ戻りつを淡々と描く。

船場の「維康商店」や飲み屋の「蝶柳さろん」などをロングショットで見せ、人間模様を少し離れたところからクールに描く。3、4ヶ所だけインサートされる森繁と淡島の濃淡の強い顔のアップが、強烈な印象を残す。

関西の学生の話を聞くと「淡島の大阪弁は多少気になるが、今のNHKの朝ドラなどに比べたら何倍もリアル」「大阪のボンボンは変わっていない」「法善寺横丁のセットは見事」「今は使わない言葉も多い」などなど。

母親が船場の出身という女性は、森繁の「頼りにしてまっせ」というセリフは、まさに船場言葉と言う。豊田監督は京都、脚本の八住利雄は大阪、森繁は大阪の出身。浪花千栄子や田中春男、山茶花究といった関西出身が脇役を固める。

冒頭の大阪の俯瞰と有馬温泉のロングショット以外はたぶん東宝のセットでの撮影だが、十分に戦前の大阪の雰囲気と匂いを作り出しているのではないか。戦後10年で、戦争前を懐かしく思うような映画が出てきたことにも驚く。

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