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2017年3月21日 (火)

ダルデンヌ兄弟、健在

4月8日公開のダルデンヌ兄弟監督『午後8時の訪問者』を見た。去年のカンヌで見ていたが、実は冒頭でぼんやりしていたせいか、どこか納得がいかなかったのでもう一度見ることにした。

冒頭で見逃していたのは、主人公の女医ジェニーが午後8時に鳴ったベルに応じなかった場面。そのベルを鳴らした女性の遺体が翌日見つかって、ジェニーは罪の意識を抱え始める。映画全体を引っ張るモチーフだけに、その場面を明確に覚えていないのはまずい。

カンヌで毎朝9時から1日に4本も見ていると、時々ぼんやりしている時がある。英語字幕でもあるし、やはり映画祭では本当に見たとは言えない。

カンヌではぼんやりもあったが、違和感があったのは、おそらく全体がミステリータッチになっている点だろう。ジェニーは自分の診療所のドアを鳴らした若いアフリカ系女性について、1人で探し始める。すると、女性が関わっていた売春の実態が少しずつ明らかになり、それを知られたくない人々の妨害が始まる。

ジェニーの携帯電話が鳴ったり、診療所のベルが鳴るごとにヒヤリとする。あるいは彼女が車を運転していても、隣りに走る車の男から止まれと命令されたり、売春の場所を提供していた男に大声で怒鳴られたり。観客は「音」の恐怖にびくびくしながら、映画を見てゆくことになる。そこまで頑張らなくてもいいのにと思いながら。

ジェニーは罪の意識から強い倫理観で淡々と動く。「知られたくない人々」はそれぞれに理由があって、彼らも自分を守るために動くしかない。映画はそのぶつかりを、ダルデンヌ兄弟らしく余計な説明を交えずにミニマルに見せてゆき、そこにドラマが生まれる。

医学に絶望した若い研修医の苦悩やジェニーが後を継いでくれると知って喜ぶ老いた医師や彼女を頼りにしている老婆など、犯罪と関わらない人々もきちんと描かれている。なによりジェニー役のアデル・エネルの抑制された生の演技が光る。やはりダルデンヌ兄弟は健在で、今回も見るべき1本だろう。

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