早春にヴェネツィア絵画を楽しむ
今の季節にピッタリの絵画展を見た。4月2日まで開催の「ティツィアーノとヴェネツィア派展」で、毎年のように映画祭でヴェネツィアに通っている私としては、行かざるをえない。ましてやティツィアーノとティントレットが見られるのだから。
出品はヴェネツィア近郊のヴィチェンツァのキエリカーティ宮絵画館を中心に、フィレンツェのウフィツィ美術館ほかヴェネツィアやナポリなどイタリア各地の美術館から出ている。
ローマやフィレンツェとは違うヴェネツィアのルネサンス絵画を見せるものだが、最初にベッリーニとその工房作品があり、それからティツィアーノと工房作品が10点は超す。それからティントレットとヴェロネーゼとその周辺。有名な名前が次々と出てくる割には、全体にどこか地味な感じか。
その中では、やはりティツィアーノの《フローラ》(1515年頃)が印象に残った。「フローラ」とはローマ神話で花の女神だが、ここに描かれているのはもっとリアルで官能的だ。一説によると高級娼婦を描いたとも言われるが、確かに今見てもこれはクロウトの女に間違いない。
幼いのに達観したような表情、肩のなまめかしさ、子供のような小さな指の官能性など、とても素人ではない。右手にバラの花束を持っているから花の女神を表すというが、それは「口実」でしかないだろう。
同じティツィアーノの《ダナエ》(1545頃)は、もっと身も蓋もない。父親に幽閉されたダナエのもとに、黄金の雨に姿を変えたオリュンポスの主神ユピテルが訪れ、彼女と交わったという。全裸で黄金の雨を待ち受ける女性は、あまりにもみだらだ。そのふくよかな体も、手や足の動きも。
ティツィアーノ晩年の《マグダラのマリア》(1567)も宗教画とはいえ、その顔も腕も指もエロチック過ぎる。要するに、この画家は神話や聖書の題材を使いながら女性のエロスを極めたということだろう。
そういえば、フィレンツェなどのルネサンス絵画が板にテンペラや油彩で描かれた板絵が多いのに比べて、ヴェネツィアでは布のキャンヴァスに描かれた絵が多いことに気がついた。これは海に面したヴェネツィアは湿度が高いからだろうか。こんなことも私は知らないとは。
この文章を書きながら、短い新聞記者時代にティツィアーノの《ウルビーノのヴィーナス》(ウフィッツィ美術館像)と《うさぎの聖母》(ルーヴル美術館像)について、それぞれ別に長めの解説を書いたことを思い出した。今さらながら、赤面の至り。人生は恥の繰り返しか。
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