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2017年3月11日 (土)

『ザ・ダンサー』のロイ・フラーをめぐって

6月3日公開のフランス映画『ザ・ダンサー』を見た。ステファニー・ディ・ジュストという女性監督の第一回長編だが、ロイ・フラーという20世紀初頭の気になるダンサーの映画というので、早く見たいと思った。

ロイ・フラーと言えば、映画初期に出てくる「サーペンタイン・ダンス」(蛇のダンス」の映像で有名だ。映画を発明したエジソンやリュミエール兄弟の映画にも色彩豊かな「蛇のダンス」がある。

もちろん当時はカラー映画はないので、フィルムの一コマ一コマを手で彩色したものだが、その色彩の美しさと共に優雅なダンスの見せ場は初期映画のハイライトの一つ。ダンサーは両手に棒を持ち、体の何倍もの大きな布をはためかせる。

私はてっきりリュミーエル兄弟との撮影シーンが出てくるかと思ったが、そのようなシーンはなかった。その分、この「蛇のダンス」がいかに周到に計算された演出だったかを見せてくれる。

劇場の中にいくつも鏡を使い、そして10台ほどのさまざまな色の照明を使う。その演出プランをロイ・フラーが作っているシーンが何度か出てくるが、彼女は単なる「ダンサー」ではなく、これまでになかったダンスを考えた演出家だったことがわかる。

鏡や照明を使った装置は映画前史や初期映画にたくさん出てくる。つまりフラーのダンスは、まさに映画誕生の時期の光と機械を使った新しい20世紀の産物だったのだ。彼女の弟子の踊り子の1人が、映画前史に出てくるゾーエトロープというおもちゃで遊ぶシーンもそれを物語る。

全編が美的なセンスに満ちている割には、映画としての盛り上がりは欠けるかもしれない。アメリカの田舎からニューヨークを経てパリにたどり着き、「ラ・フォリー・ベルジェール」で人気を呼んでオペラ座の舞台に声がかかる。ところが本人の苦悩は増すばかり。

若きイザドラ・ダンカン(リリー=ローズ・デップ)との同性愛的なシーンでわかるように、この映画にはレズビアン的要素がいっぱいだ。その分、アメリカ時代から彼女を助けるルイ・ドルセー伯爵とも結局は結ばれずじまい。イザドラ・ダンカンとの関係は見ていて楽しいが、同じく登場する日本の貞奴がいまひとつなのが残念。

調べてみると、エジソンが撮ったダンスはアナベルという女性のもので、リュミエール兄弟のものはイタリアで撮影されており、ロイ・フラーへのオマージュと解説されている。彼女本人が出る映像は、パテ社の1901年のものがウィキペディアにあるが、これは本物のようだ。

少し前に書いた『僕とカミンスキーの旅』と同じく、映画そのもの以上に、描かれる内容が実に興味深い1本。

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