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2017年3月31日 (金)

『牯嶺街少年殺人事件』に陶然となる

ほぼ4時間の『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』(91)を劇場で見た。最近は楊徳昌=エドワード・ヤンの映画を見直して、本当に大監督だと改めて思うことが多い。『恐怖分子』(86)は3年ほど前、『タイペイ・ストーリー』は去年の東京フィルメックスで再見した。

『牯嶺街少年殺人事件』は、1991年の東京国際映画祭で見て以来。その時は文化村のオーチャード・ホールで会場の広さに比してスクリーンが小さかったこともあり、画面が暗くてただでさえ多い登場人物がよく判別できなかった記憶がある。

今回4K復元版を見て、これはたぶん台湾映画史最高の傑作ではないかという気がした。1960年頃の台北を、中学生たちを中心に描いたものだが、主人公の小四(チャン・チェン)だけでなく、登場するすべての人々にある種の影があり、鬱屈した何かが感じられる。

映画はその時代全体の雰囲気をすくいとるように、ロング・ショットで見せてゆく。その中でだんだんと小四の顔が浮かび上がり、上海からやってきて苦悩する両親の表情がだんだん迫ってくる。そして鮮烈な印象を残す少女・小明のキリリとした顔。

始まってようやく1時間くらいたって、これらの顔と名前が一致し始める。それからボーイスプラノが印象的なチビの小猫王(これはリトル・プレスリーの意味)、小明の元恋人で台南に身を隠していたハニー、金持ちの転校生の小馬などが、次第にくっきりと人物像を結ぶ。

そのほか20人以上の名前が出てくると思うが、とても覚えられない。それでも、夜中に饅頭を売る男やいばる教師でさえも、みんな忘れがたい。

小四は、中学入試に失敗して夜間部に通い、不良たちと仲良くなる。彼が好きになる小明はみんなにもてるが、どこか暗くてクール。母親が貧しいからか。小四の父はインテリの公務員だが、警察からは中国共産党との関係を疑われ、夜中に拘束される。

小四と小明のいくつかのシーンが忘れがたい。ブラスバンドが鳴り響く中で、小四は小明に「一生守ってあげる」と打ち明ける。あるいはピストルで遊んでいたら、小明のピストルに実弾が込められていて、発砲してしまう瞬間や小明が小粋にかぶる西部劇を思わせるような帽子。そして終盤の小四が小明を刺してしまうシーン。

小猫王たちが演奏するプレスリーや、テープに録音された音楽、いつも壊れるラジオから流れる日本の歌謡曲など音楽が抜群にいい。これに家の中や街の音が絶え間なくかぶさる。

アメリカへの憧れ、日本への憎しみと懐かしさ、中国本土への複雑な思い、台湾における本省人と外省人の対立、外省人同士の反目など、1960年前後の台湾の社会と人々の何ともいえない重い雰囲気を、静かにまるごと見せるような傑作である。

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