« 『マンチェスター・バイ・ザ・シー』の苦悩 | トップページ | 『息の跡』のブリコラージュ »

2017年3月 4日 (土)

『全裸監督』にのけぞる:その(2)

村西とおること草野博美の人生には、信じられないほどの狂気といいかげんさと人情が折り重なっている。1980年にビニ本の小売店チェーンを作った時は、ビデオゲームで大儲けした北海道を選んだ。75日で全道に48店舗を作る。「ほどほどにしておくことができない、過剰な事業が爛漫と花咲き、この男に眠っていた狂気の拡大主義が頭をもたげた」

そしてグループの名前を「北大神田書店」と命名する。本人はこう語る。「やはり北海道なら北大でしょう。おれも家にカネがあれば本気で大学行きたかったらね、やはり北大はまぶしいわけよ。それで‟北大”という名前をもってきて、あとは東京で一番デカい書店街は神田でしょ」

これはその後、九大神田書店、名大神田書店、阪大神田書店、広大神田書店と広がるのだから、冗談のような話。彼にはこうした変なノリがある。「ナイスですねえ」と言う言葉も、カメラを肩にかついでBVDの白いパンツ姿で「お待たせしました!」というパターン(鶴太郎に真似されたという)もそう。

警察には、ビニ本の時から金をばらまいていた。「警視庁の刑事たちに当時、裏本を取り締まるチームがあったんですよ。その4つのチームにまんべんなくお金をバラまいてたんです。いまから三十年前の警察なんて、組織内部まで入っていけたんです」。

何と各チームに毎月600万円を配っていたという。「だから絶対捕まらないという自信があったわけ。警察の動きを刑事が教えてくれるから」

その後年齢を偽った未成年少女が出たAVにより「児童福祉法違反容疑」で3度も起訴されるが、いずれも処分保留となって実刑を受けなかった。これは「検察庁の歴史のなかで戦後最強の検事と呼ばれ、政界の摘発から様々な大事件に辣腕をふるった大物中の大物」と親しかったからだという。「一緒に飯を食ったり中島みゆきのチケットとってやったりした程度ですよ」

村西は「売れなくなった」芸能人に不思議なやり方で優しくした。元フォーリーブスの北公次が売れなくて和歌山にいるのを探し出し、マジシャンとして売り出そうと村西は大金を使う。あるいは映画版『月光仮面』で主演だった大村文武に、自分の監督するAVに月光仮面のコスチュームで登場させた。先方も困ったことだろう。

「ビザが切れたまま不法滞在していたブラジル人女性に、帰国費用まで持たせて祖国まで見送った。昔のビニ本・裏本仲間が失業中だと、迷うことなく営業部員に雇い入れた」。この優しさはたまらない。

この本には、彼が87年にハワイで米国司法当局から370年の懲役を求刑されて、15名と4ヵ月も過ごす場面が描かれる。これは1億円を使って司法取引で逃げ帰る。あるいはバブル崩壊後、50億円の債務を負った話も出てくる。これが92年で44歳だが、それでも今まで何とか生き延びている。

現在、彼を追ったドキュメンタリーができているらしい。これはぜひとも見たい。

|

« 『マンチェスター・バイ・ザ・シー』の苦悩 | トップページ | 『息の跡』のブリコラージュ »

映画」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/537538/64964127

この記事へのトラックバック一覧です: 『全裸監督』にのけぞる:その(2):

« 『マンチェスター・バイ・ザ・シー』の苦悩 | トップページ | 『息の跡』のブリコラージュ »