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2017年4月 6日 (木)

『夜空はいつでも最高密度の青色だ』の現代性

大学で教えて8年になるが、最近思うのは、今の大学生の世界観は自分とは全く違うということ。同じ世界で生きていながら、今の若者は能天気な私たちの世代とは別の見方で世の中を見ている。5月13日公開の『夜空はいつでも最高密度の青色だ』を見て、そのことを考えた。

この映画に出てくる人々には、明るい未来は全く見えない。未来どころか現在も楽しみはどこにもない。美香は看護師をしながら、夜はガールズバーで働き、慎二(池松壮亮)は建設現場で日雇いで働く。一応はこの2人の出会いが描かれるから「ボーイ・ミーツ・ガール」のはずだが、そこには恋愛らしい楽しさはない。

冒頭、美香は亡くなった入院患者を見送る。ガールズ・バーでは無理に作り笑いをして働く。東京から遠くない田舎の実家に帰ると、毎日が楽しい高校生の妹と母の死後働くことを辞めた父がいて、美香は仕送りをしている。

慎二の職場には、急に饒舌になる彼を「うるさい」と怒鳴る智之(松田龍平)や腰が悪い中年の岩下さん(田中哲司)やフィリピン人の出稼ぎ。慎二に突然連絡をした中学の同級生の女の子は、アメリカから帰ったと嘘をつく。

美香の独り言や話す言葉があまりにもヘンだと思ったら、これは最果タヒという詩人の詩集を原作にして、監督の石井裕也が脚本を書いたものだという。確かにこれは小説や漫画ではありえない話かもしれない。

登場人物たちの目に映る東京は、あまりにもバカバカしく、どこにも希望がない。美香は「何で恋人ばかりいるんだ」と怒り、飲んで騒ぐ会社員を憎悪する。このある意味でまともな若者の生きる場所は、東京のどこにもない。映画はその空気感を硬質なままに見せる。

そんな男女が知り合って、ほんの少しだけ希望が浮かぶ。路上で歌う女性(野嵜好美!)がメジャーデビューする様子が出てくるが、そんな小さな幸せが確実に生まれる。

美香の不愛想で硬い感じを、映画初出演の石橋静河がまるで生のように演じている。それを受け止める池松壮亮もいつもの演技のうまさを封じて、不器用でヘンなダメ男に徹している。

あちこちの大きな工事現場で建設が進み、一見多くの人々は希望を持っているようだが、実は若者には絶望が広がりつつある。オリンピックの2、3年前の微妙な時期の東京に生きる若者たちのリアルを描いた秀作として、ずっと残る作品になるのではないか。

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コメント

高校生のとき、曲がりなりにも東大に行こうとして、結構まじめに勉強してたと思っています。結局いけなかったけど、比較的まじめな生徒でした。
ただ、高校卒業の前には、3日連続で、飲み会をやった記憶もあります。1日は、イノシシを食わせる店で、店の中にいた犬と遊んでて、酒臭い息を吹きかけたら、顔をかまれた。もう1日は、同学年の女の子がバイトしていたスナックを貸し切りにしてパーティー。女の子と初めてチークっぽいダンスをしてうれしかった。
なんとなく、違和感があります。

投稿: jun | 2017年4月 6日 (木) 21時15分

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