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2017年4月 8日 (土)

『ムーンライト』の気になる上質感

今年のアカデミー賞はどうも相性が悪い。『ラ・ラ・ランド』と『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(5月公開)がどこか自分の感性と違うと思っていたが、昨日の「朝日」朝刊を見て、『ムーンライト』もほめ過ぎだと思った。

アカデミー賞で作品賞、脚本賞、助演男優賞なのでいかにも良さそう。実際に劇場で見て、前に挙げた2本よりもいいと思った。それでもほめ過ぎと思ったのは、いかにも作り込んだ映画だから。黒人、貧困、ドラッグ、ゲイというテーマだと、まず誰も反対できない。

黒人の主人公シャロンを、小学生、高校生、30代の3つの時期に分けて描く。別の俳優が演じているし実際に似ていないのだが、どこか同じ匂いを漂わせる。そして3つの場面の境目に、しばらく黒い画面を入れる。

撮影は手持ちの長回し。時にはドラッグをやっているかのように、カメラは自由自在に舞う。主人公の母親がヤクをきめて話す場面は、見ているこちらにも幻影が伝わる。

30代になった主人公、施設で暮らす母親、コックになった友人の姿がどれも何とも痛ましく、愛おしい。主人公が友人に会いに行く時には、『トーク・トゥ・ハー』で使われた「ククルクク・パロマ」が車の中でじっくりと流れる。この場面に限らず、音楽の使い方はかなり甘い。

そのすべての上質感が、私にはアメリカのこれまでに黒人を描いた秀作に比べると、どうも気になった。どうも計算とテクニックで作られているような気がしてならなかった。あらゆるマイナーな要因を上品に混ぜ合わせて、アメリカのインテリに有無を言わせないというか。

現在のアカデミー賞の雰囲気を最も表している、踏絵のような映画かもしれない。「朝日」で生井英考氏が「私には、この作品がオバマ政権の文化的遺産のように思えます」「最後まで穏健さと自制心をつらぬいたオバマの8年間で米国の人種感覚が洗練されたことを感じます。2016~17年の米国を象徴する映画だと思います」

この生井氏の文章を読むと、「そうだ、だから凡庸なのだ」と思う。河瀨直美監督も「論理でなく感覚でつないでいる印象です」「私自身、デビュー作から説明しない映画を作ってきました」と書くが、確かに2人の映画は「評価されやすいうまさ」が似ている。

「朝日」にこんな記事が載ったのは、配給に出資しているからだろうか。

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コメント

朝日新聞の石飛です。このクロスレビューを担当しました。弊社の出資とはなんの関係もないですよ! これだけは断言しておきます。わたしがものすごく気に入ったから選ばせてもらいました。こういう声高じゃなく、つぶやくように社会のありようを描く映画がわたしは大好きなのです。最後のシャロンの告白には号泣でした。誰一人だなんて!

投稿: 石飛徳樹 | 2017年4月 8日 (土) 11時36分

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3部で構成される、黒人少年の成長?記。 主人公はなんと!、常に「寡黙」 全くアメリカ人っぽくない(笑) なぜそうなったかは少年の家庭がまず大きい。 片親の母親はドラッグにふけり、オトコを家に連れ込む。 そんな環境に置かれるうちに、「いじめ」にあい、どんどん内緒的に陥っていく...... [続きを読む]

受信: 2017年4月 9日 (日) 14時49分

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