『Don't Blink』の楽しさ
ドキュメンタリー映画『Don't Blink ロバート・フランクの写した時代』を見た。文化村の「ザ・ミュージアム」でソール・ライターの写真展を見たら、「ル・シネマ」で上映中のこの映画のチラシを手にして、ニューヨークを撮ったもう1人の写真家の生涯を知りたいと思った。
ロバート・フランクは。90年ごろに「これが真実(1時間)」というドキュメンタリーをイメージフォーラム・フェスティバルで見て、度肝を抜かれた。有名な写真家ということだったが、もちろん知らなかった。マンハッタンで1時間カメラを回しただけの映画だったが、何が出てくるかわからない即興的な映像が実に楽しかった。
それから95年に横浜美術館で「ムーヴィング・アウト」という大きな個展を見た。有名な「The Americans」を始めとして膨大な写真と共に映像作品も数多くあったが、展覧会の中での映像はどうしても全編は見られない。
それからは雑誌などで写真を目にした程度。映画作品もほとんど上映されなかったのではないか。だから今回の映画は実にためになった。まず、ロバート・フランクの写真は、ソール・ライターのように細心の注意を払って撮られたものではない。とにかくガンガン撮って、後でよかったショットを探す感じ。
彼はなんと20本ほどの映画を撮っているが、その作品は写真以上に日常の日々を見せる。彼自身、写真より映画の方が撮られる側が自然になっていい、と語っている。とにかくたくさんの人々が出てくるが、アレン・ギンズバーグやウィリアム・バロウズやミック・ジャガーなどの有名人も多い。そういえば、「あゆみ」という日本人女性のアシスタントの姿がよく映る。「ゆういち」という男性も出てきた。
質問に答える今の彼の姿やかつての作品を見る姿が写ると思うと、何十年も前のインタビューの姿がいくつか出てくる。どれもチェックのネルシャツに野球帽で、服装はマイケル・ムーアに近い。いわゆる金のない普通のアメリカ人の姿。
そして、「同じ質問ばかりするなよ」「昔の映像の前に今の自分が映るのはいやだ」などと文句ばかり言いいながら、それでもニコニコ笑っている。挟み込まれる写真や映像はどれも強烈だ。事故で亡くなった娘アンドレアや自殺した息子パブロの映像もある。奥さんのジューンのインタビューもおもしろい。
自由奔放に写真を撮り続けるロバート・フランクの姿は私には典型的なアメリカ人に見えるが、実はスイスの生まれ。それだからこそ、アメリカ人の真実を見せることができたのかもしれない。とにかく見終わると、生きる元気がどこからか沸いてきた。
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