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2017年5月 1日 (月)

『ハロルドとリリアン』の絵コンテに驚く

先日、『笑う101歳×2』で高齢の男女を描くドキュメンタリーを見たばかりだが、5月27日公開の『ハロルドとリリアン』も、80歳を過ぎて元気に働く男女を撮ったドキュメンタリーだった。ハロルドもリリアンもハリウッド映画の裏方の夫婦だが、名前を聞いたこともなかった。

ハロルドは撮影前の絵コンテ作家で、リリアンはリサーチャー。映画はリリアンが2人の歩みを語りながら、当時の映像を交えて2人の仕事を紹介してゆく。

一番驚いたのは、ハロルドの絵コンテ(英語だとストーリーボード)と実際のできあがった映画のシーンを比較して見せられた時。ヒッチコックの『鳥』(63)で子供たちが無数の鳥に追いかけられて逃げるシーンやマイク・ニコルズの『卒業』(68)で、ロビンソン夫人の足の間からダスティン・ホフマン演じる青年が見えるシーンなど、映画は絵コンテのアングルをそのまま使っている。

そのほか『十戒』『マーニー』『スペースボール』『屋根の上のバイオリン弾き』『ウェストサイドストーリー』『大統領の堕ちた日』などなど、ハロルドの絵コンテのドラマチックな出来栄えに目を見張る。

脚本があって、それをどう視覚化するかを考えるのが監督の仕事だが、構図やカメラの位置など、演出の半分はこの絵コンテでできあがっていた。ところがハロルドの名前は長い間クレジットされることがなかったという。彼の名前が「プロダクション・デザイナー」や「美術監督」で出てくるのは『ジョニーは戦場に行った』(71)あたりから。

リリアンのリサーチャーの仕事は、この映画では見えにくい。歴史ものの細部とか麻薬犯罪とか映画の演出に必要なあらゆるものを調べ上げているようだが、おもしろいのは、回転式の円状の膨大なデータカードをめくっているところ。一度は麻薬の取材をするために、麻薬王のプライベートジェット機でボリビアに行こうとするが、夫に止められたエピソードも出てくる。

彼女はリサーチのための本を膨大に所蔵して図書館にしているが、その場所をめぐっての話も興味深い。もともとサミュエル・ゴールドウィンのリサーチ図書館で働き、それを買い取ってアメリカン・フィルム・インスティテュートに置き、さらにコッポラとルーカスのゾーエトロープ社、パラマウント、ドリームワークス、そして美術監督組合へと図書館と共に放浪の旅を続ける。

ハリウッド映画が、有名な俳優や監督やカメラマンだけでなく、こんな無名の人々によって支えられてきたのだと実感する。仲睦まじい2人の夫婦の物語としても楽しめる。映画好き、映画関係者、映画界を目指す若者は必見。

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