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2017年5月29日 (月)

『ラ・ポワント・クールト』に驚く

最近必要があってヌーヴェル・ヴァーグの初期作品を見ているが、一番驚いたのはアニエス・ヴァルダ監督の『ラ・ポワント・クールト』(1955)だった。これは日本未公開で、DVDもフランスやアメリカでしか出ていない。私も一度も見たことがなかった。

この1928年生まれのフランスの女性監督は『5時から7時までのクレオ』(1961)がヌーヴェル・ヴァーグ初期の代表作の1本として有名になったが、その後は日本公開作も少なく、『冬の旅』(1985)あたりから再び活発に撮り始めて、最近はエッセイのような自由自在な映像を時々撮っている。今年のカンヌでも新作があったようだし。

最近の映像作品は、魅力的ではあるが、とにかく亡くなった夫のジャック・ドゥミの話と子供や孫の話が多くて、いささかうんざりもしていた。『5時から6時までのクレオ』はさすがにすばらしいが、当時のゴダールやトリュフォーの輝きに比べると地味だ。

ところが1955年に作られた『ラ・ポワント・クールト』は、実に強烈。南仏の小さな港町セート近くを舞台に、そこにパリからやってきた若い男女の不和を描く。状況としては、ロベルト・ロッセリーニの『イタリア旅行』(54)のイングリッド・バーグマンとジョージ・サンダース演じる英国人夫婦に近い。

港町の人々は素朴というよりは荒々しく、野生に満ちている。彼らの様子は、むしろヴィスコンティの『揺れる大地』(48)のシチリアの人々を思わせる。後半のボートを使った槍の格闘競技のなんと野蛮なことか。

この映画のカップルは、フィリップ・ノワレとシルヴィア・モンフォール。フィリップ・ノワレはその後有名になるが、当時はまだ少年のようで無表情でまるでギリシャ悲劇の役者のように見える。彼が演じる男はその町の出身で帰省しており、パリから不仲な妻がやってくる。2人はひたすら町の中をうろつき、言葉少なに語り合う。その不条理感はアントニオーニの映画のよう。

あえて言えば、ネオレアリズモを深化させた映画を1955年の時点で完成させていたことになる。まだゴダールやトリュフォーやリヴェットは短編さえも作っていなかったのに、自分で脚本を作り、主演の2人を除いては素人を使ったドキュメンタリーのような映画を作ってていたとは。

これが55年のカンヌで上映され、56年には一般公開される。トリュフォーの『大人はわかってくれない』やレネの『二十四時間の情事』がカンヌ上映後劇場公開され、シャブロルの『美しきセルジュ』が封切られるのは59年のことだが、その3年前にそれらをたぶん上回る作品を発表させていたとは。

映画の歴史は美術などと違ってたかだか100年ちょっとなので、やはり絶えず書き換えられなければならない。


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