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2017年5月25日 (木)

『ジャズ娘誕生』につめかける人々

友人と会うついでに、フィルムセンターで『ジャズ娘誕生』(1957年)を見た。国産三原色カラーシステム「コニカラー」を復元したもので、作品の前に上映された復元デモ映像によれば、長らく白黒でしか見られなかったという。30分前に着いたら、長蛇の列だった。

最初は入れないかと思ったが、どうにか入れた。最終的には満員だったのではないか。まさか「コニカラー」の復元がさほど話題を呼ぶとは思えない。大半が高齢者なので、江利チエミのハスキーボイスを聞きたくて来たのか。知り合いの大学の映画の先生も数名見かけた。

物語は、大島の椿油売りをする娘たちの一人で歌のうまいみどり(江利チエミ)が、楽団「ユニバーサル」に出会い、そこにスカウトされて地方巡業を続けているうちに、東京の丸の内劇場でデビューを飾るというもの。いわば「スター誕生」だが、「ユニバーサル」には石原裕次郎演じる春夫もいて、この2人のラブロマンスもある。

復元したカラーは「鮮やか」とはこのことだというほど、赤、青、黄の三原色を中心に、カラーの美しさが見せつけられる。主演の江利チエミが目玉パッチリのくっきりとした顔立ちで、色とりどりの衣装に負けない。

冒頭の椿油売りのシーンから、真っ赤な椿の花を髪につけて赤い帯を締めた娘たちに目を奪われる。その後チエミは真っ赤なドレスを着て、裕次郎は赤いスカーフを首に巻く。そして鮮やかな夕焼けが何度も映る。

色彩以上に復元されたのは、音声だろう。江利チエミの歌が最初の「椿油売りの歌」に始まって何度も出てくる、いわばミュージカルだが、最新のデジタル技術によって、たぶん当時以上に美しく聞こえる。彼女の椿油の歌を聞いて、売れなかった椿油が急に売れ出すのが見ていてよくわかる。彼女は広沢虎造の浪曲の代理までこなすのだから。

彼女に比べると裕次郎の出番は少なめで、明らかにチエミの映画というべきだろう。彼女を見出す楽団のトップ役の小杉勇が、戦前から日活で活躍してきただけあって、なんともいい味を出している。楽団のマネージャー役の殿山泰司や丸の内劇場支配人役の二本柳寛などもいい。

監督の春原政久は戦前のサイレント期から日活で活躍してきた監督で名前は知っていたが、あまり意識して見たことはなかった。十分に楽しめる一本だったが、あのド派手な色彩感覚は美術の木村威夫や撮影の姫田眞佐久の力も大きいだろう。

終わってから拍手まで起こったが、それは最後に「ジャズ娘」としてスターの座を射止めた江利チエミへのものだったに違いない。同時にこれまでの同時代のカラー復元を明らかに上回る鮮やかな色と音に対するものでもあるだろう。さすがに三色分解して白黒ネガ3本で保存したコニカラーのシステムの解像度は群を抜いていた。

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