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2017年5月26日 (金)

『実相寺昭雄 才気の伽藍』を読む

少し前に買った樋口尚文著『実相寺昭雄 才気の伽藍』をようやく読んだ。実相寺昭雄という名前は、私たちの世代にはちょっと神話的な響きを持つ。『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』のすごい回を作ったとか、ATGでヘンな映画があるとか、オペラを演出したとか。

私はそんな噂話だけを聞いていたが、実はほとんど見ていなかった。唯一見たのは映画『帝都物語』(88)だけ。その時は、こけおどしの構えの割にはパラパラ漫画のような印象で、「変なものを見た」としか思わなかった。

だから全く知らない状態でこの本を読んだが、それでも読み物としてなかなか楽しかった。それはこの監督が、テレビに始まって、映画、ビデオ作品、TVコマーシャル、音楽番組、オペラ演出、小説、随筆とまさに「才気の伽藍」のような活躍をしたから。

そのうえ、この本は実相寺が残した日記や手紙や演出メモや絵コンテなどを詳細に読み込んだうえで解析し、貴重なプライベートや仕事の写真と一緒に本の中で紹介している。分野を横断しながら楽しそうに活躍する様子が伝わってくる。

1937年に生まれ、59年に早稲田を出てTBSに入った彼にとって、目指すところはフランスのヌーヴェル・ヴァーグやシネマ・ヴェリテだった。学生時代の日記には、仏語の記述が目立つ。1956年のフランス映画ベストテンなどは(ちなみに1位はルネ・クレール『夜の騎士道』、2位はアンリ・ヴェルヌイユ『ヘッド・ライト』)、題名も監督名も仏語が添えてある。

59年のフランス映画1位はアラン・レネ『二十四時間の情事』、2位はクロード・シャブロル『いとこ同士』だから、ヌーヴェル・ヴァーグを出だしから高く評価している。『二十四時間の情事』については、「メモワール=記憶の映画であり、一人の女の明確化された内部意識が人類全体という外部へつながっている、新しい概念の平和映画としてかつてないものでないか」

そして日本のヌーヴェル・ヴァーグの騎手の大島渚を最初の『愛と希望の町』から激賞する。「庶民性という曖昧さで、一度登場人物を無階級的に捉えながら、その庶民性の曖昧さをバラバラにして階級対立の視点を取り戻し得た」

こんな彼だから63年末の美空ひばりの日劇の中継で、「歌っていない時の美空ひばりを極端なるクローズアップで、そして歌っている時のひばりを極端なるロングショットでとらえてみせた」。そしてディレクターを降ろされて、円谷プロに出向になる。

そこで大島渚から紹介された佐々木守と組んでウルトラマンを何作も担当する。この本には彼のその時の演出メモも収録されているが、その抽象的なメモに基づいて作られたウルトラマンはどんなものだったのだろうか。私は同時代的に見ているはずだがもちろん記憶にない。もう一度見てみたい。

そのほか、この本には彼が作ったテレビドラマや映画がいかにおもしろかったかという筆者の思いが、実際の実相寺の言葉と共に語られていて、本当に見たくなる。今日はとりあえずここまで。


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