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2017年5月13日 (土)

アベル&ゴードン健在

2010年の夏ごろ、『アイスバーグ!』と『ルンバ!』というとんでもない映画2本が公開された。監督・主演はアベル&ゴードンという道化師のカップルで、抜群の身体能力を発揮した即興のようなドラマはどの映画にも似てなかった。配給したのは今はなきフランス映画社で、さすがと思った。

この8月に新作『ロスト・イン・パリ』が公開されるというので、試写を見に行った。この2人に加えて、エマニュエル・リヴァとピエール・リシャールという往年の名優も共演している。

物語はシンプルそのもの。カナダに住むフィオナ(フィオナ・ゴードン)は、パリに住む叔母から「助けて、老人ホームに入れられそう」という手紙を受け取る。フィオナはパリに着くが叔母はおらず、セーヌ川に落ちてリュックを失う。それを拾った浮浪者のドム(ドミニク・アベル)と知り合い、2人は恋に落ち、叔母も何とか見つかる。

これだけの話だが、すべてはジグザグに迂回しながら進む。冒頭で、フィオナがカナダで勤める小さな図書館は、ドアが開くごとに大雪が舞い込み、中にいる人々は一斉に左側に飛びそうになる。その時の登場人物たちの漫画のようなユーモラスな仕草だけで、夢の世界の迷い込む。

フィオナは黒ブチメガネに緑のセーターで真っ赤な大きなリュックを背負い、カナダの国旗をはためかせて、パリの街を歩く。その姿が何ともおかしい。ようやく叔母のアパートに着くが彼女はおらず、歩いているうちにセーヌ川に落ちて全財産を入れたリュックとスマホを失う。

絶望的なはずなのに、なぜか妙に楽しく物語は進む。傍若無人な浮浪者のドムが実は紳士的で、フィオナが彼とダンスを踊るだけで楽しさが沸き上がる。ドムの住む橋の下のテントから木を登ると、なぜかエッフェル塔にたどり着くおかしさといったら。

叔母を演じるエマニュエル・リヴァが、何とも気さくなおばあさんで嬉しくなる。ピエール・リシャール演じるかつての恋人ノーマンと再会し、ダンスを踊る。エッフェル塔でフィオナとドムの間に座った瞬間もジーンとくる。

2人の独特の身体感覚も、映画全体のカラフルな色彩も、だらだらと締まらないドラマが即興のように楽しげに続く感じも、ジャック・タチの映画そのもの。いや、皮肉たっぷりのタチよりも人々がもっと幸福感に満ちている。「外国人のパリ」の系譜にまた一つ秀作が加わった。

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